

Before the Race
8月7日(木)パタヤ
全面キャンセルの可能性すらあった30周年記念大会
1国開催となったが、走れる喜びを噛みしめたい
真っ白な積乱雲の下、一面に拡がるマリンブルーの海。目を凝らせば対岸に昨年のスタート地「スラータニ」を臨むことができる。ここはパタヤ。バンコクから南東へ約160km、チョンブリー県の西海岸に位置するこの街は、アジア屈指のビーチリゾートとして知られている。このパタヤが今年、記念すべき第30回アジアクロスカントリーラリー(AXCR)の出発地となった。
AXCRは1996年にマレーシアで産声を上げて以来、タイ、マレーシア、ラオス、カンボジア、ベトナム、中国、ミャンマー、シンガポールといったアジア各国を舞台に開催されてきた。途中、2020年から2021年にかけ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりキャンセルとなったが、2022年の11月には復活。今では国際自動車連盟(FIA)が公認するアジア最大のクロスカントリーラリーとして多くのファンに親しまれている。
今年は30周年を迎えるにあたり大会期間を2日間延長、3,000kmを遙かに超える走行距離が用意された。そしてタイ・パタヤをスタートし、カンボジアのアンコールワットを経て首都プノンペンに至る遠大なルートで開催されるはずだったが…、残念ながら不安定な国際情勢がそれを許さなかった。
5月下旬にはタイとカンボジアの国境地帯で銃撃戦が発生。その諍いはあれよという間にエスカレート、自動小銃がバズーカとなり、ミサイルが飛び交い出し、さらにはF-16戦闘機まで駆り出される事態となった。こうして両国の国境は閉鎖、主催者は苦渋の決断でルートを全面変更せざるを得なくなった。急きょタイ国内での開催に切り替えたのだ。
これにより、カンボジアの4チームと昨年に続き参戦を熱望していたベトナムチームは国境を越えることができなくなり、参戦をキャンセル。とても残念な結果となった。とはいえ、カンボジア政府の全面協力により、首都プノンペンに700人規模のホテルが用意され、記念大会にふさわしい盛大な最終日を迎えるはずだった計画は、泡沫(うたかた)のように無に帰したわけではない。主催者は「いつか必ずリベンジしたい」と強い気持ちで語っていた。
さて今年、ラリーのヘッドクォーター(HQ)が設けられたのはプライベートビーチを擁する「アジアパタヤホテル」だ。この日は朝早くからホテル前の敷地で予備車検が行われ、検査官たちは四輪のリストラクターの口径を1台1台確認していた。
一方、海に面した敷地では、二輪と四輪の競技車両が最後の整備を受けていた。昨年に比べれば、海風が心地いい環境ではあったが、それでも日中の暑さは凄まじかった。シートに寝そべり、路面の照り返しを受けながら作業を続けるメカニックの額には大粒の汗。美しいマシン達の影でこの競技を縁の下で支えている彼らの働きを、忘れるわけにはいかない。
Chaiyo! Chaiyo! Chaiyo!!
万歳三唱で始まったウェルカムパーティー
そして夕方。18時半からAXCR恒例の「ウェルカムパーティー」が海岸通り近くの「RUEN THAI RESTAURANT」で開かれた。会場は地元の雰囲気漂う、木造の風格ある建物。選手やメカニックなど、ほぼ全てのチームのスタッフが集まり、30周年の節目を祝いながら、音楽と料理、酒を楽しんだ。
乾杯の音頭はアジアンラリー親善協会の石田憲治会長だ。「今年は30周年の記念大会です。四輪の参加台数は45台、そして二輪が38台、サイドカーも2台参戦します。主催者が用意したコースは厳しく、参加者にとっては非常にタフな戦いになることでしょう。でも、最終日のゴールを目指し、勝利を目指してほしい!」と挨拶すると全員にグラスを持って立ち上がるよう促し、「Chaiyo!(チャイオ!・万歳!)」の掛け声で音頭をった。「Chaiyo! Chaiyo! Chaiyo!」全員声を合わせ、3たび復唱すると、会場は大きな拍手に包まれた。
さあ、明日はいよいよ公式プログラムがスタートする。公式車検に選手ブリーフィング。競技初日LEG1のルートブックも配布される。そして日没後20時にはいよいよ「セレモニアルスタート」が始まる。
次のレポートをお楽しみに!(文/河村 大、写真/高橋 学)