11月26日(土)晴れ シェムリアップ → シェムリアップ
99.03km リエゾン:51.20km SS:47.83km

LEG 5

いすゞ・トヨタ・三菱が繰り広げた三つ巴の戦いが決着
三菱ラリーアートのトライトンが初参加で総合優勝!
二輪の優勝はTeam Japan の 西村裕典!

朝焼けの空にアンコールワットのシルエットが浮かびあがる。27年目のアジアクロスカントリーラリーもいよいよ最終日を迎えた。

第7回大会でゴールになって以来、アンコールワットを通過、または目的地としたルートは7回目。2002年に初めてカンボジアへ越境した時は、舗装路もなく道路は極悪で、リエゾン中ですら激しくシェイクされる体を両手で支えながら、ただひたすらに唇を噛みしめながら移動したことを思い出す。

それでもカンボジアの人々は優しくて人なつっこく、車窓から見える田園風景は宝石のように美しかった。

それが今や、カンボジアのライダーや4輪チームが当たり前のように活躍し、ゴール後は ”ノーサイド” とばかりに他国のチームと健闘を称え合うう。そんな姿に隔世の趣を感を禁じ得ない。

だが今年のアンコールワットへの道のりは、またひとつ特別な意味を持っていた。世界中に蔓延したコロナの厄災によってこの大会が中止を余儀なくされて2年。3年目も延期せざるを得なくなるなど幾多の困難を超え、ようやく開催に漕ぎ着けることができた。

主立った選手達の顔ぶれはもちろん、主催者から運営スタッフ、そしてメディアやメディアドライバーまでもがこうして再び集うことができたのは本当に奇跡と言っていい。

アンコールワットは、長かったトンネルを抜け、再スタートを切ることができたアンコール(encore)の舞台として、AXCRの歴史に刻まれて行くに違いない。

さて。それでは大会期間中最も短く、だが4輪のラスト10台にとっては最も印象深いルートとなった 伏兵ルート "SS6" の顛末をご報告しよう。

復活の "ラリーアート旋風" が巻き起こる

四輪は三菱ラリーアートチームから参戦していた3台のトライトンのうち、カーナンバー105の Chayapon Yotha / Peerapong SOMBUTWONG 組 が総合優勝を飾った。

♯105の Yotha / SOMBUTWONG 組は初日のLEG1でトップタイムを叩き出すと、2日目には2位との差を7分46秒まで広げると、その後も総合トップの座を一度も明け渡すことなく最終日まで走り切った。

後方からはトヨタのハイラックスやフォーチュナー勢が少しずつタイムを詰めながら迫ってきていたが、♯105 のトライトンがラリー前半で築いたアドバンテージをひっくり返すことはできなかった。

三菱ラリーアートは今大会初出場で初優勝。チームの歴史はまだ始まったばかりだが団結力が高く、意気盛んで今回の競技シーンでもひときわ目立つ存在だった。

"名は体を表す" とは言われるが、伝統のブランド名を声高らかに、そして自由に謳歌したチームが素晴らしい成果を残すことができたことは記憶に深く留めおきたい。

現場で戦う者にとって、誇りある名のもとに集い、名乗りを上げることで自らのアイデンティティを外に示し、ひとつにまとまっていく…というプロセスは想像以上に大切だったのだ。

また、ワークスチーム「ラリーアート」の在籍時代にダカールラリー総合優勝を2連覇した世界のレジェンド、増岡 浩 氏が監督としてチームの真ん中でどっしりと構えていたことも大きかった。

毎夜、整備や修理の現場で遅くまで指揮を執っていたが、チーム内にコロナ感染者が発生した時の危機管理も素晴らしく、自身の体内に脈打つ「ワークスチームの在り方」をアジアの地に示してくれたことも、非常にありがたかった。

見えて来たトヨタ ハイラックス の長所と短所

総合2位は Toyota Cross Country Team Thailand の ハイラックス レボ。カーナンバー102 の Jaras Jaengkamolkulchai / Sinoppong TRAIRAT 組だ。

チームは今年、参戦5年目を迎えていたが、これまでは2位に甘んじることが多く、今年はライバル・いすゞチームの体制が変わったこともあって、念願の初優勝を期待する声が多かった。

しかし、競技開始直後の一瞬の隙を突かれた形で三菱ラリーアートチームの先行を許してしまう。中盤以降は攻めに攻め続け、2台のハイラックスが三菱勢より早いタイムを出し続けたが、初日の遅れを完全に取り戻すことはできなかった。

個人的には、初出場ながらディフェンディングチャンピオンのいすゞを追い詰め、総合2位を獲得した初年度の戦いが記憶に強く残っているが、今年は同じような迫力と熱気を三菱ラリーアートチームから感じた。やはり、何物をも恐れぬ初出場のチームが勢いに乗った時は止められないものなのだろう。

いずれにせよ、フレームの剛性や耐久性、極悪路をいなすサスペンションの完成度には一日の長があったものの、三菱トライトンやいすゞD-MAXより車重がやや重く、ストップ&ゴーの続くセクションで有利に戦うには更なる対策が必要、という改善点は今大会の結果で見えて来たように思う。

いすゞに加え三菱という新たな強敵を得たトヨタ勢が今回の悔しさをバネにどう変わって行けるのか、来年8月の戦いを楽しみに待ちたい。

ピックアップ優位の戦いに風穴を開けたフォーチュナー

3位は♯116 塙 郁夫 / 染宮弘和 組 のトヨタ・フォーチュナーだ。クルマ椅子のドライバー、青木拓磨選手率いる Fortuner GEOLANDAR takuma-gp の2号車として1号車の ♯108の 青木 / SIMARAKS 組と付かず離れずの走りを続けていたが、結果的に1号車よりひとつ前の順位でゴールすることができた。

そして♯108 の 青木 / SIMARAKS 組 も総合4位につけ、その存在感を強く示すことに成功した。青木選手はこれまで、スタックやパンク、故障時にクルマを出て作業することが難しかったため、第三のコドライバーを常に後席に乗せていたが、今回初となる2台体制を構築したことで他チーム同様2名乗車で戦えるようになり、マシンの軽量化が進んだ。その結果が如実にタイムに現れるようになっている。

このマシンは TCD Asia Pacific Indonesia が用意し、北米のデザートレースのノウハウを持つ塙選手がサスペンションなどのカスタマイズを担当したものだが、外から見ていても極悪凹凸路面での追従性に優れ、ピックアップより重いSUVボディながら十二分なスピードを見せていた。

また、このように甲乙付けがたい2人のトップドライバーを揃えてしまうと、ややもするとチーム内が割れる原因になったりするものだが、チームの雰囲気やコース上での連携プレーは素晴らしく、その成果が結果に結びついた形だ。

プライベートチームの善戦と加熱するタイヤ戦争

総合5位には ♯118 チーム三菱ラリーアートの RIFAT HELMY SUNGKAR / Chupong CHAIWAN 組 が入り、今回のトライトンの実力がフェイクではないことを証明した。

そして「三つ巴」の一角を構成するいすゞ勢は総合6位に登場する。♯115 Ayumi Racing Team の Tawee Neanna / Athikij SRIMONGKHOL 組 の D-MAXだが、何よりもここがプライベートチームであることに驚かされる。ワークス勢によるトップ争いの一角を占めることができたのは本当に素晴らしいことだ。

そしてまた、ここ数年激しさを増し続けている "タイヤ戦争” についても触れておきたい。今大会も BFGoodrich や ファルケンタイヤ(FALKEN)、 TOYO TIRES(トーヨータイヤ)など様々なメーカーのMTタイヤがまるで見本市のようにひしめき合っていたからだ。

ただし今年はチーム三菱ラリーアートの3台がヨコハマゴムの(The Yokohama Rubber)のMTタイヤをセレクトするなど、例年になくジオランダーM/Tの使用率が高かった。実際、入賞5台中、1位、3位、4位、5位がジオランダーの装着車両で占められるなど、目立った活躍を見せていた。AXCRではこのままヨコハマ一強の時代になるのか、来夏も楽しみに観察して行こうと思う。

最後まで安定して速かった日本の西村裕典選手が優勝

昨日の予想通り、2輪はトップ4のタイム差がそれぞれ5分近く開いている中、短い最終SSで逆転を狙うことは難しく、前日のオーダーを変えることなく最終結果が確定した。

優勝は♯3 Team Japan の 西村裕典(ハスクバーナ TE250i)選手。LEG4こそ総合トップを奪われたものの、翌日には逆転、十分なマージンを持ったまま最終日を迎えると、ソツなく走り切って表彰台の真ん中に立ってみせた。今大会は西村選手の安定した速さが光った大会だった。

2位は Team Cambodia の ♯20 Koun Phandara 選手(KTM 450EXC-F)。3位には Team Cambodia の ♯24 Daravuth Chan(SUZUKI RMX 450Z)選手がつけ、♯1 松本典久選手(KTM 350EXC-F)が4位となった。

なお、総合5位となった Team Japan の ♯5 田崎博司(TASAKI Hiroshi)選手(ハスクバーナ FE350)は最終SSで4輪のトップグループに迫る40分台のタイムを記録。この日設定されていたウルト(WURTH:工具メーカー)のアワードを文句なしのトップ賞で受けていた。

moto

路面のバリエーションが多かったSS、全身を赤土で染めた最終日

前日夜に告知されたとおり、予定より30分遅れでスタートしたLEG5の朝、MOTO部門の選手たちはカンボジアのシェムリアップに設定された宿泊ホテルから、今大会最後のSSとなるSS6のスタート地点へと向かった。

この日は朝から蒸し暑く、空は明るく、SSスタートの9時5分にはすでに太陽の陽射しが痛い。そして暑い。風は清々しく涼しい空気を届けてくれるので、日影に入れば南国リゾートの空気感すら漂う。

SSを終えれば、大会のフィナーレを飾るフィニッシュセレモニーがアンコールワットで行なわれる。大会の舞台がどの国であれ、最終日のSSは「気持ちよくアジアンラリーを終えるためのご褒美セクション」だと言う人もいる。

SS6がスタートしてから、昼前にはSSフィニッシュの先にあるサービスエリアへMOTO部門の選手たちがやって来た。みな、全身赤土にまみれている。

不思議なもので、気候の違いに明確な線など無いはずなのに、国境を越えた瞬間に空気も太陽の陽射しも変わったと感じるのは、国籍問わず誰しも同じではないだろうか。トンネルを抜けるとそこは雪国だった、のようなものか。

大地の成り立ちによって人間が通る道もさまざまな表情を見せる。赤土の未舗装路に必ず現れる「穴」の出来もそのひとつ。例えるなら、タイでは洗面器の断面ような、深いくぼみのような穴だとすると、カンボジアではほぼ垂直に地面が抉られた穴、陥没に近いと言えば想像できるだろうか。

この違いはタイヤが穴に対して真っ直ぐ突き進んだとき、車体が上下に弾むか、フロントタイヤから止められて前転してしまうかくらいの差がある。バイクなら穴を避ければ済むところだが、4輪では車体の足が折られる厳しい路面だったのではないだろうか。高速で突っ込んだら、まずただでは済まない。

また、一見すると土の地面だが、タイヤもしくは足で踏むと水面のようにうねり、最初は弾力があるものの重たい泥沼に変貌する。そんな場所で、AUTO部門では苦戦したチームも多かったらしい。

ほかにも、ヌタヌタの泥がトラックのタイヤで激しく凹凸を形成したまま固まっていたり、岩が顔をのぞかせていたりと、もちろんタイと同じような路面もあるが、カンボジアではラフ路面のバリエーションが豊富だった様子。

バイクもライダーも、カンボジアの赤土を浴びてたいそう難儀なセクションだったと想像できるが、フィニッシュセレモニーまでの長い待ち時間(AUTOの到着を待たなければならない)、参加者たちの顔からは何か満たされたような表情が伺えた。

これまでの自分の価値観をひっくり返すような体験が、バイクで挑むアジアンラリーには潜んでいる。コンパクトバージョンで2度のキャンセルから復活した今大会に、そんな「洗礼」は正直無かったものの、来年の開催からは、これまでの「アジアンラリーらしい」大会となることだろう。

(写真・文/田中善介)
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AUTO
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MOTO, SIDECAR
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