2019年末から始まり、世界中に広がった新型コロナウィルス感染症。その影響は瞬く間にモータースポーツへと広がり、2020年夏に予定されていたアジアクロスカントリーラリーも中止。翌年も開催できず、2022年もオミクロン株の流行によって夏の開催を断念せざるを得なくなってしまった。
しかし11月への延期が奏功し、ついにAXCRが開催される運びとなった。誰もが不可能だろうと考えていたミャンマーへの越境に成功した2019年大会から実に2年3か月ぶり。1996年の初開催から27回目を数える伝統のクロスカントリーラリーが母国タイ王国の大地に帰ってきた。
今大会のスタート地はタイ・東北部のブリーラム県。チャーン・インターナショナルサーキットを起点にタイ国内で4日間の競技をこなし、陸路でカンボジアに越境、5日目にユネスコの世界遺産「アンコールワット」でゴールを迎える予定だ。
なお、大会の公式スケジュールは車検やセレモニアルスタートが行われる11月21日より始まるが、これに先立ち、ラリーを率いるHQ(ヘッドクオーター)がサーキット脇のモデナ バイ フレイザーホテルに設置され、選手の受付が開始された。
また、すぐ前の広場にはピットエリアが設けられ、色とりどりのテントやのぼりが林立する中、チームカラーに染め上げられた鮮やかなラリーマシンが次々と到着し、ピカピカに磨き上げられた車体にゼッケンナンバーや大会スポンサーのステッカーを貼りながらマシンの最終チェックを始めていた。
16時からは日本語による事前ブリーフィングが行われた。これは主催者の笹忠之が日本人関係者に向け、非公式に開催しているもので、近年恒例となっている説明会だ。参加は任意だが、全ての説明や質疑応答が大会公式言語の英語ではなく日本語にて行われるため、多くの日本人エントラントが参加していた。
会の冒頭ではアジアンラリー親善協会(Asian Rally Friendship Association)としてAXCRを影で支えてくださっている石田さんからの挨拶があった。そして「今年のラリーがより正確でしっかり難易度のある競技性の高いものとなるよう助言をしてきた」という趣旨が語られると、参加者も緊張の面持ちで聞き入っていた。
その後マイクを握った笹からの説明で明らかになったのは、今年のコース設定の難しさだった。実は事前のレッキ作業が行われた9月から10月にかけ、タイとカンボジアはひどい大雨に見舞われ、特にカンボジアでは道路の状況が劣悪となり、本来2日間行う予定だったカンボジアエリアでの競技を1日に短縮せざるを得なかったことが報告された。
また、乾期に行われる大会として、ドライコンディションでのハイスピードの戦いが予想されていたものの、大会期間中に雨が降る日が多くなる見込みであることも合わせてアナウンスされていた。
そして例年通り村落を通過する時などにスピード制限が設けられることが報告されたが、新たに採用したGPSドライブレコーダーシステムによって、そうしたエリアでのスピード超過やコースのショートカットが厳しく監視されることも明らかになった。
このGPSドライブレコーダーシステムは台湾のLOOKING社製のもので、MOTO(2輪)、SIDECAR(サイドカー)、AUTO(4輪)を問わず全車に装着が義務付けられ、取付も大会エンジニアによって行われる。GPSの軌跡やスピードだけでなく車内からの映像も記録されることが特徴で、記録映像は参加者が個人的に使用することが可能だという。
明日は朝から車検が始まり、午後にはLEG1の出走順を決めるスーパーSSが行われる。そして夜には待ちに待ったセレモニアルスタートが始まるのだ。
選手やピットクルーはもとより、大会スタッフやメディアまでもが2年振りの再会を心から喜び合った今日一日。コロナ禍は人が集うこと自体を禁じて来たが、Rallyの語源はその真逆。「人やクルマが再び集う」 ことに他ならない。“No rally no life”とまで言い切る選手や関係者達の願いがひとつになり「アジア圏伝統のラリー」が今年もまた、スタートの時を迎えようとしている。(写真/高橋 学、文/河村 大)
コロナによる影響が収まらず、何もかもが困難な状況の中開催される今大会に参加してくださった皆さんには心から御礼を申しあげます。そして諸般の事情で参加できなかった皆さんにも大会終了まで変わらぬご支援・ご声援をお願いいたします。本当にありがとうございます。よろしくお願い申しあげます。