第20回
フェデラル - ベッセル アジアクロスカントリーラリー2015 開幕!
古都チェンマイの城郭の少し外側に位置する「インペリアル メー ピン ホテル」にて車検が行われた。
見上げれば灼熱の太陽。ジリジリと照りつける強烈な日差しにアスファルトが熱せられ、むせかえるような熱気が広がっている。空一面に広がる青いカンバスには入道雲のコンボイ。朝か夕か、はたまた真っ昼間か。毎日欠かさず遅いかかってくるスコールの嵐が、ここが紛れもなく熱帯気候であることを物語っている。
タイ北部、ムアンチエンマイ郡。通称チェンマイ。1996年の初開催以来、通算20回目となる記念すべきアジアクロスカントリーラリーの舞台は、ひさかたぶりに北部山岳地帯へと帰ってきた。
近年はパタヤを起点に東へ向かうコースが多かったため、中西部のプランテーションやジャングル、カンボジアの凹凸路を走ることが多かったが、今年の前半戦は標高を稼ぎつつ竹林さえ登場するような涼しげな植生へといざなわれるコース。暑い暑いとはいうものの、さすがにタイの避暑地から北を目指すとあって、コースがここ数年とは全く違う様相を呈しているのは間違いない。
今年のコースは総延長2,422km。昨年から一気に倍増しており、タイム計測が行われるスペシャル・ステージ(SS)も955kmというロングタスク。競技日程が昨年より1日増えたとはいえ、毎日のリエゾン(移動)距離が長く、日がな一日走り詰めの毎日になることが十分に予想できる。
さらに、毎日必ず降るスコールによって山肌が十二分に水を吸い、道はぬかるみ、泥の川となってエントラントに襲いかかり、横切る川そのものが増水して水没の危険性が増えていることも予想される…。そう。今年はスタートを切る前からコース内での波乱が十分に予見できる、そんなルートに仕立ててられているのだ。
これこそ「アジアクロスカントリーラリー」の神髄。ハイスピードのドライ・ダートだけでは終わらない、まさにクロスカントリーの総合能力が試される最高の舞台が整った、と言っても過言ではない。
さて、そんな栄えある20周年記念大会にエントリーしたのは四輪28台、二輪41台の猛者たち。国籍は地元タイのほか、インドネシア、韓国、カンボジア、スウェーデン、台湾、日本など様々。四輪はタイのクロスカントリーラリーでダントツの人気を誇る いすず・D-MAXに加え、トヨタ・ハイラックス ヴィーゴ、三菱・トライトン、三菱・ストラーダ といったピックアップ勢が過半数を占めるものの、そこから派生したいすず・Mu-Xやパジェロスポーツといったタイ生産の本格SUV勢も参加。さらに日本からは3台のジムニー勢とエスクード、さらには往年の名車パジェロ・エボリューションが海を渡って参戦した。目玉はなんといってもプラグイン・ハイブリッドの機構を駆使して、エンジンに加え電気モーターを利用してコースを攻めるアウトランダーPHEVのラリー車だが、果たしてこの難コースを誰が一番に駆け抜けてゴールしてくるのか、非常に楽しみなところだ。
そして、今年何よりも驚いたのは二輪の出場選手数。昨年の16台に対し今年は41台と、この1年で一気に四輪を抜く大所帯に成長。ライダー達の国籍も豊かだがメーカーも日本のホンダ、ヤマハ、スズキに加え、オーストリアのKTM、スペインのGUSGUS、スウェーデンのHUSQVARNA、HUSABERGなど国際色豊かになり、公式車検となったこの日も、選手同士の交流があちこちで盛んに行われていた。
車検を受ける TWO & FOUR MOTORSPORTS の アウトランダーPHEV。
明日からの競技に向け、ドライバーズミーティングが行われた。
思えばアジアクロスカントリーラリーが初開催された1996年から足かけ20年、駆け抜けた国々は主催国タイのほかにマレーシア、シンガポール、中国、ラオス、ベトナム、カンボジア、ミャンマーなど8か国にのぼっているが、これだけ多くの選手が同じコースを走り、表彰台の頂点を目指して競い合うのは初めてのことかもしれない。
もちろん、ポディウムの頂点を狙うことだけがラリーの楽しみ方ではない。とにかく完走第一! ドライビングを一気に上達させたい。アイツより速く走りたい。国内では味わえない景色を堪能したい。非日常の世界で自分の限界を試したい。仲間と歓喜の酒を酌み交わしたい…。
人生が十人十色であるように、人生の縮図ともいえるラリーもまた各人各様の楽しみ方があるのだが、いずれにせよ国際自動車連盟(FIA)および国際モーターサイクリズム連盟(FIM)公認のクロスカントリーラリーで目標以上の好成績を残せば、他のチャレンジではなかなか味わうことのできない、大きな満足が得られることは間違いない。それも、山あり谷あり平野あり、砂利あり泥あり岩場あり、川あり森あり迷い道ありの、ひと筋縄ではいかぬ道のりを越えた先に得られるものだけに、格別なものとなるはずだ。
ただし、これだけはお伝えしておこう。ラリーは決して大自然の営みだけを相手にするものではない。また、自分自身を深く見つめたからといっていつも上手く行くとは限らない。その空間には必ずオーガナイザーという人智が介在し、その見えざる手が、今年のラリーをどう運命付け、どう導いていくかを方向付けている。その意味で、ラリーとは主催者と選手が大自然を媒介に知恵比べをするようなものだ、ともいえるのだ。
第20回フェデラル - ベッセル アジアクロスカントリーラリー2015の幕開けを宣言するイベントディレクター 笹 忠之。
特に、このラリーの中心人物は選手とのかけひきを楽しむ「ねっからのラリー好き」だ。果たして今年のビッグ・デイは何日目に用意されているのか。どこに、どんなポイントが隠されていて、それはどうやったら上手く乗り越えられるのか。どこで集中し、どこでライバルに差をつけ、どこで息を抜くことができるのか…。そんなことに思いを巡らせながら、エントラントも応援するみなさんもいろいろ想像をたくましくしながら、この6日間を眺めていただけると、さらにアジアクロスカントリーラリーを楽しめることと思う。
ドライバーズミーティングに登場したスポンサーガールズ。この後行われたスタートセレモニーで、総勢69台に及ぶマシン達を全て見送ってくれた。今度会えるのは6日後のゴール。エントラントも含め、全ての人が最終日笑顔で再会できますように。
最後に、今日行われたスタートセレモニーの模様を全車漏らさずご紹介しておこう。