筋書きのないドラマを生み出してきたラリーも
古都チェンマイでフィナーレを迎えた

8月14日金曜日。長かったラリーもいよいよ最後の戦いを迎えた。とはいえ、逆転を狙う選手達に与えられたSSはやや短く、45.18kmを残すのみ。コンディションが悪くても1時間に満たぬであろう短い戦いになることは間違いない。

何事もなければ、前夜に確定した順位を大きく変動させることは難しいのだが、筋書き通りにはいかないのがアジアクロスカントリーラリーの常。過去には最終日に難しいナビ・セクションが用意された「どんでん返しの年」もあったことから、エントラントにとっても気が抜けない。上位の選手にとっても、ここでゴールラインをまたぐことができず、ペナルティーをくらうようなことになれば、奈落の底へ突き落とされることは必須。SSを終え、その先チェンマイまでのリエゾンが終わらぬ限りは、誰が優勝するか分からない。そんな、厳しくも過酷な1日が始まった。総走行距離281.81km。うちリエゾンが236.63kmという内容だ。

とはいえ、ふたを開けてみれば前夜から激しく降った雨の影響もさほどなく、SS内の路面コンディションはおおかた問題ナシ。相変わらず厳しい凹凸が続くものの、過去5日間の荒波に揉まれた選手達にとっては、労せず通り抜けられるような状況となった。もともと短めの距離だったこともあり、早々とSSを消化する選手達の中には、拍子抜けした面々もいたほど。最後はチェンマイまでの163.8kmを無事、時間通りに走り抜けることだけが課題となり、SS直後のサービスエリアでは「まだ終わっちゃいない」「最後まで気を抜くな」という言葉があちこちで飛び交っていた。

そんな中、最後まで筋書きのないドラマに翻弄され続けたのが ♯105 の青木拓磨 / Ittipon SIMARAKS / 椎根 克彦 組(Mu-X GEOLANDAR TAKUMA-GP Takuma/ISUZU D-Max)だ。最後のSSで有終の美を飾るべくプッシュを続けていた拓磨選手のマシンはなんと右フロントサスのアームが折れ、ゴール手前2kmで自走不能の状態に。ゴール近くで待ち構えていた同チームのサービスクルーも救出に向かうも路面が悪く近づけないという絶対絶命の危機に陥った。このまま、タイムアウトなのか?

ゴールのゲートはくぐれないのか? ここでリタイアなのか…。

でも、チームクルーは諦めなかった。スペアのアームと必要な工具を、拓磨車が頓挫している現場までピストン輸送。拓磨選手のマシンに3人目の選手として乗車していた 椎根選手が右フロントサスのアームを速攻で全交換。修理が終わるやいなや、拓磨選手は仲間が修理したサスを信じ、遅れに遅れていたSSを脱出してリエゾンをひた走り、チェンマイのゴールへと向かった。

そして、6日間の戦いで満身創痍の拓磨選手のマシンがゴールゲートに到着したのは彼らのゴールアナウンスの直前。まさに間一髪で、6日間のラリーを“完走”で締めくくることに成功した。

今大会、トラブルが続出した同チームは、その都度ホテルのサービスエリアでマシンを修理、翌日の朝には必ず元気な姿で現れていたが、奇しくもそのチームワークの高さが最終SSの現場でも証明された形となった。拓磨選手も最後はさすがにホットした表情で「椎根さん、ナビのヨンさんが指揮するサービス隊など、チーム全員の力が発揮されたからこそ完走できました。今年はこういった結果になってしまったけど、来年また全てをリベンジできるようにがんばります」と語っていた。

Leg6でトップタイムを叩き出した ♯111 Paitoon THAMMASIRIKUL / Thanyaphat Meenil 組(Sitthiphol Group Isuzu Elf・Isuzu D-Max)

そして、栄えある四輪の総合優勝のトロフィーは、昨年に引き続き ♯101の Nuttapon Angritthanon / Peerapong Sombutwong 組(The Landtransport Association of Thailand Singha Isuzu Team/ISUZU D-MAX)の手に。準優勝は初出場の ♯110 篠塚建次郎 / 千葉栄二 組(TEAM SHINOZUKA Jimny Japan/SUZUKI JIMNY)が獲得した。総合3位は ♯115 の Rachan Trairat / Jumpol Duangthip 組(Team Insight/ISUZU D-MAX)である。

最終SSで3番手のタイムを記録した ♯112 Takatsugu AOKI / Wuttichai TRITHARA組(TWO & FOUR MOTORSPORTS・三菱 アウトランダーPHEV)

二輪の総合優勝は上位の成績を地道にコンスタントに積み重ねた♯11 池町佳生 選手(Team FB JAPAN A/GASGAS EC250)。2位は韓国のエンデューロチャンピオン ♯17 の Ryu Myunggul 選手(Team KOREA/KTM 450EXC-R)。そして3位はスウェーデンからはるばる遠征してきた♯20 Magnus Osterberg 選手(RALLY RAID SWEDEN/HUSQVARNA FE501)となった。

上位インタビューをページ下段に掲載


※以下、掲載の順位は総合順位です。

AUTO部門

1st #101 Nuttapon ANGRITTHANON (THA) / Peerapong SOMBUTWONG (THA)
2nd #110 Kenjiro SHINOZUKA (JPN) / Eiji CHIBA (JPN)
3rd #115 Rachan TRAIRAT (THA) / Jumpol DUANGTHIP (THA)
4th #106 Yoshiro ITO (JPN) / Takeshi HIRAKA (JPN)
5th #123 Bhisanu BUSITARNUNTAKUL (THA) / Prakob CHAOTHALE (THA)
6th #108 Sirichai SRICHAROENSILP (THA) / Amnuay KOSITAPORN (THA)
8th #124 Ikuo HANAWA (JPN) / Daijiro AKAHOSHI (JPN)
13th #109 Satoshi TAKENO (JPN) / Naoyuki YANAGAWA (JPN)
14th #128 Michihiro ASAI (JPN) / Teen CHOU (TWN)
15th #120 Yasuhisa AONO (JPN) / Masanori UEDA (JPN)
17th #105 Takuma AOKI (JPN) / Ittipon SIMARAKS (THA) / Katsuhiko SHIINE (JPN)
19th #127 Fumikatsu NISHIMURA (JPN) / Masahiro MICHIHATA (JPN)
20th #112 Takatsugu AOKI (JPN) / Wuttichai TRITHARA (THA)
21th #118 Yuichi IIJIMA (JPN) / Masayuki FUKANO (JPN)
25th #117 Toshi ARAI (JPN) / Takahiro YASUI (JPN)
KARA Cambodia カンボジアチームも記念撮影!

MOTO部門

1sr #11 Yoshio IKEMACHI (JPN)
2nd #17 RYU Myunggul (KOR)
3rd #20 Magnus OSTERBERG (SWE)
4th #42 Jakkrit CHAWTALE (THA)
8th #1 Keisuke MAEDA (JPN)
14th #41 Atsushi MAEHARA (JPN)
16th #26 Masashige NAKAJO (JPN)
14th #41 Atsushi MAEHARA (JPN)
19th #39 Daigo MIYAZAKI (JPN)
20th #40 Shinichi YAMADA (JPN)
21th #7 Hisazumi FUKUMURA (JPN)
24th #38 Kazunori ITO (JPN)
27th #21 Susumu ISHII (JPN)
30th #3 Tadao EZURE (JPN)
Rally Raid Sweden スウェーデンチームで記念撮影!

表彰式

AUTO部門総合成績の表彰。右側タイ人選手の後列中央が優勝した♯101 Nuttapon Angritthanon / Peerapong Sombutwong 組(The Landtransport Association ofThailand Singha Isuzu Team ISUZU D-MAX)。画面左奥には初出場ながら2位と大健闘。日本ラリー界の“レジェンド”の存在を改めて示した ♯110 篠塚建次郎 / 千葉栄二 組(TEAM SHINOZUKA Jimny Japan/SUZUKI JIMNY)。その手前には自己最高位となる総合4位を獲得した #106 伊藤芳朗/平賀健組(TAGA meets NAIRAN/ISUZU D-MAX)。このチームはふたりだけの“完全”プライベーター参戦でありながら素晴らしい成績を残した。
AUTO部門のチーム賞は 1位がタイの「The Landtransport Association ofThailand Singha Isuzu Team」、2位が日本の「JIMNY JAPAN」。3位は アウトランダーPHEV とそのドライバー 青木孝次 選手を中心に 日本とタイ合同で結束した「TWO&FOUR MOTORSPORTS」が獲得した。
MOTO部門総合成績の表彰。手前中央が優勝した ♯11 池町佳生 選手(Team FB JAPAN A)、その右隣が 2位の ♯17 Ryu Myunggul 選手(Team KOREA)、左隣が ♯20 Magnus Osterberg 選手(RALLY RAID SWEDEN)。
MOTO部門のチーム賞の表彰。1位はスウェーデンの「RALLY RAID SWEDEN 1」。2位が日本の「Team FB JAPAN」、3位もスウェーデンの「RALLY RAID SWEDEN 2」。

最後に、AUTOとMOTOの上位選手のインタビューをご紹介して7日間のデイリーレポートの締めくくりとしたい。

トップバッターはアジアXCラリー初出場ながら総合2位、T1G(改造車ガソリンクラス)1位の成績を勝ち取ったニッポンのレジェンドにしてパリ=ダカールラリーの覇者:篠塚健次郎選手(67歳)。このデイリーレポートの担当者もこれまで様々な方にオフロード競技のインタビューをしてきたが、これほどまでに正確にわかりやすく、毎日休むことなく丁寧に語ってくださる方に出会ったのは始めてのことだった。

今回、篠塚選手は 同じジムニーに乗る ♯109 竹野悟史/柳川直之 組、♯127 西村文克/道畑勝博 組 とタッグを組み「Team Jimny」を結成。各種の情報やサービスクルーを共有し、毎日のように作戦会議も行っていた。篠塚選手は時に先輩として彼らにアドバイスし、時にはアジアXCラリーの初心者として彼らからアドバイスを受けたりしていたのだが、そのミーティングはいかにも楽しそうなムード。チームメートの皆さんも初めは「何彼と偉ぶらずに話してくれるいい人だな」という印象だったに違いない。でもLeg1、Leg2と日が経つに連れ、サービスクルーを含む同チームの全員の篠塚選手を見る目が、明らかに変わっていくことを目の当たりにすることとなった。

篠塚選手は若い人の話を本当によく聞いてくれる。そしてよくアドバイスされる。自慢などしない。言い訳もしない。そしてなによりも速く、上手い。マシンを壊さない。

チームのまとめ役の♯109 竹野選手もラリーの中盤戦でこう語っていた。「篠塚さんはホンマにええ人やね。僕らのこともちゃんと面倒見てくれるし、なんせ、毎日、言葉で言ったことを結果で証明してくれはるもんやで。僕ら、篠塚さんの昔のね、輝かしい成績はホンマのところ知っとるようでよう知らんのやけど、こうやって現役で、腕一本で見せてくれはると、もうファンになるね。好きやわ。ホンマに。尊敬。すごい人や」。ベタ褒めである。

そんな篠塚建次郎選手が、アジアクロスカントリーラリーを総括して語った最終日のコメントもまた含蓄に富んでいた。それは、まるで若い人に語りかけるような口調で、インタビューを通して若手にメッセージを伝えるような、そんな語り口だった。そして海外の多くのラリーを熟知していながら、アジアXCラリーを知らなかった篠塚さんならではの視点だ。だから逆に、アジアXCラリーしか知らぬ人には新鮮。自分達が参戦しているラリーのなんたるかを、浮き彫りにしてくれる発言となっていた。


AUTO部門 総合2位/T1G(改造車ガソリンクラス)優勝
♯110 篠塚建次郎 / 千葉栄二 組(TEAM SHINOZUKA Jimny Japan/SUZUKI JIMNY)

総合2位おめでとうございます! まずは初出場したラリーの印象をお教えください。

そうだね。大きく3つあるかな。

まず第一はね、クルマ造りの話。アジアクロスカントリーラリーっていうのは、聞いてた話ではキャメルトロフィーみたいにもう泥沼に浸かっちゃって動けなくて、ウインチ使ってやっと引っ張り出して…そういうイメージだったんだよね。だけど、今回来てみて走ってわかったけど、そんなハードなドロドロが延々続くわけじゃなくて、でも路面がとっても悪いのね。凸凹が凄く多いし激しいし、石や岩もあるし、雨水の流れで路面が削り取られた溝も深い。まず、クルマにはとってもハードなコースだなあ、と思ったよ。それにコーナーも凄く多いんで、とにかく、クルマには相当な負荷がかかるんだよね。だからちゃんとクルマを造ってこないと、すぐ壊れちゃう。しかも道が狭いんでちょっとでもクルマが横にズレると石とか切り株が襲ってきて、パンクも簡単にしてしまう。だから相当レベルの高いクルマを造ってこないとまず、このラリーはちゃんと走れないな、と。

それから、ナビゲーターにとっても、あのブッシュの中のあの難しさっていうのはちょっとね。今まで自分が経験した中では、あんなところないな、っていうくらいね、難しい。特に3日目がそうだし、4日目もやっぱりああいうようなところがあったんだよ。あれをね、うまく走り抜けるっていうのはとっても難しいから「ココはナビゲーションに集中しようって、速く走ってる場合なんかじゃない」って、そういうように頭を切り替えないとだめなのね。競争しているんじゃなくて、とにかくここを上手く切り抜けるんだって、そういうふうに車内の空気を切り替えるわけ。

それと、ドライバーはミスコースがあるとすぐナビゲーターのせいにするけども、あれね、無理。あの難しさ、あの細かさじゃ無理だよ。だってナビゲーターはそんなに頻繁に外を見れないもん。コマ地図と距離計みているだけでね、精一杯。だからやっぱりドライバーの目も一緒に活用する算段を考えないとダメなんだよね。だから、そういう意味でもこのラリーはドライバーとコドライバーとのマッチングがとても大切だなあという風に思ったね。それが2番目。

それから3番目。やっぱりドライバーにとってもね、道幅がとっても狭いし、滑りやすいところもたくさんあるし、でね、あれだけひどいマッドだと、もうどんなタイヤも一緒なの。だから逆に滑りやすいマッドでもコントロールできるだけの技術が必要だし、グラベル(舗装)のSSも結構距離あるし、ダートも結構ハイスピードのところもあるし、ものすごい勾配のところもあるし、四駆のローレンジで走ったことなんて俺初めてなのよ。ローレンジなんて競技で使うなんて全然思ってもみなかったから。で、今回始めて四駆のローレンジで走ってみたけども、やっぱりドライバーにとってもすごく難しいラリーなんだな、と思ったんだ。

だから、モータースポーツで必要な、クルマ、ドライバー、ナビゲーターという3つの能力を全部キッチリ要求されるっていう意味ではかなりハイレベルなラリーだなっていう風に思ったな。それを、このラリーしか知らないエントラントの皆さんは何の気無しにこなしているわけで。だからちょっと、ビックリした。

競技は楽しめましたか?

実はラリー走ったのは2012年のラリーモンゴリア以来なんで、3年振りだからとっても楽しめたよ。しかも思ったほど、毎日終わってああ疲れたな、っていうことはなかったな。わりと「あれ、もうおわっちゃったの?」みたいな感じだったから、俺の体力もまだまだあるなー!なんてね。ちょっと自信持っちゃったの。もう、とっても楽しかったの。

そうですね。拝見していてとても楽しそうでした。

うん。やっぱりね、マシン造りしてくれたナビの千葉君がね、彼はコツが分かっているんだな。だからむやみに強化するばっかりじゃなくて、サスなんかもすごく柔らかくセッティングしてあったのよ。ま、ロールはするんだけど、だから、舗装のSSなんかはやっぱりしんどいけども、だけど、ああいうマッドのとこは乗りやすいよね。硬いとまたカーンってすべっちゃうかもしれないからね。だからね、彼、ちゃんと造ってくれたんだと思う。やっぱりクルマがちゃんとしてないとね。いくら走っててもねえ、なんかトラブル抱えて走っても、もうそれだけで集中できなくなっちゃうからねえ。いやいや、いい経験させてもらったよ。ありがとう!


そして「ザ・プライベーター」とも言える 伊藤/平賀 組。彼らは今回、サービスクルーも雇わずふたりだけでラリーに臨み、総合4位でフィニッシュした。SSで無茶をすれば夜の整備が大変になり、夜寝られなければ昼の成績もふるわなくなる…そう心得ている彼らは決して無理せず、でも勝負どころのクロスカントリーセクションでは他チームにマネのできない走りを披露してくれる。「僕らは遊びに来ているんですよ(笑)。もちろん上位は狙うけど無理はしない。逆に上位陣が落っこちてくるのを待つ作戦なんです。出場する目的? この真夏のお祭りをツマミに1年間仲間と飲むこと、かな(笑)。とにかく楽しまなきゃね」。そう言ってはばからない彼らの競技へのアプローチはまた、多くのスポンサーの期待を背負って走るプロ選手とは全く異なるものだ。でも逆に何もかも自分達の責任だけで走る気軽さや楽しさを彼らは身を持って教えてくれている。もちろん、お金はかけないと言っても金銭的な持ち出しは多く、ラリー前後の整備や期間中の修理など、その苦労は数え切れないほどあるだろう。そして、ともすればスポンサー至上主義の現代メディアに忘れ去られがちな彼らだが、アジアXCラリーの原点は実は彼らのようなプライベーターの存在にあったのだ。それがここ10年、ワークス勢の参戦で夜のピットもすっかり様変わり。どんなに壊れても翌日には新車になっていくタイ勢のマシンがトップを快走するようになったが、これも、もとはといえば日本勢がタイに持ち込んだ戦い方。現在はそのお株を奪われ、ワークス体勢で日本勢が地の利に優れるタイ勢に太刀打ちするのは厳しくなってしまったものの、一歩外からラリーを眺めると、ウサギとカメの競争のごとく、徐々に脱落していくワークス勢を尻目に順位を上げていく伊藤/平賀 組の戦いを眺めるのもまた痛快そのもの。プライベーターにはプライベーターならではの息の長い戦い方があることを、彼らは教えてくれている。


AUTO部門 総合4位/T1D(改造車ディーゼルクラス)2位
♯106 伊藤芳朗/平賀健組(Team TAGA meets NAIRAN/ISUZU D-MAX)

今日はどうでしたか?
ナビゲーター:平賀 健 選手

今日は無難に走りました。すぐ後ろの5位との差が20分なんで、とにかく追いつかれないように。“迷う”、“壊す” ようなことだけはナシにしようってドライバーと話していましたから。今年のラリーは、僕らのマシンもそんなに飛ばせるコンディションじゃなかったので、確実にいってどこまで順位が上げられるか、我慢の戦いに徹することにしていました。でも、うまくいったほうだと思います。

今年のラリーはいかがでしたか?
ドライバー:伊藤芳朗 選手

毎日かっ飛ばすような走りはできないけど、上位陣が自滅して行くのを待つ、という当初からの作戦でいえば結果はある意味 “予定通り” ですね。一昨年は6位、去年は5位、そして今年が4位。来年は3位!って言いたいとこですけど、今がピークじゃないかと思います(笑)。今年は篠塚さんとか塙さんの走りを後ろから見させてもらいましたけど、あれは僕らにはできないな、と。まず、クルマの挙動が違うんですよね。もちろんクルマも違うんですけど。“頭を入れてケツを振る” じゃないけど、荷重移動が上手くて、あんなことはクロカン上がりの私達にはできませんよって、そう実感させられました。まあでも一発の速さも大切ですけど、一週間コンスタントに、毎日安全に、コース脇に落ちず、スタックせずに走り切るっていうのも大切なんですよね。僕らはそっちのほうで勝負しているので、クロカンセクションだったりレスキューの時に上位を目指すつもりでいるんです。昨日のLeg5はまさにそんな感じで順位も上げることができたので、そういう日が何日かあればこのくらいの順位は狙えるんじゃないかな、ということを今年も確信することができました。まあ、今後も同じスタンスで行きますよ!

篠塚さんが「ドライバーとナビとマシンがキッチリ噛み合わないと勝てない。このラリーはとてもハイレベルな戦いをしているよ」っておっしゃっていました。伊藤さんと平賀さんのコンビはそれがちゃんと出来ているんだなと思います。で、ナビゲーションについて篠塚さんは「あんな難コースでミスしても、あれはもうナビだけのせいじゃないよ。ふたりで協業しないとね、難しい」とおしゃっていましたが、その辺り、ふたりはどうやって解決しているのでしょう?
ドライバー:伊藤芳朗 選手

篠塚さんのおっしゃる通りです。僕らは、ナビがドライバーに予めコマ図の地形を知らせて注意を促しますし、ドライバーはナビに実際の地形を中継して知らせます。ナビは実際の景色だけじゃなくコマ図やトリップメーターも見なくちゃいけないワケで、それをひとりの人間に任せっきりにしていい結果が生まれるわけがないんです。ふたりで4つの目で地形を探すっていうのが基本です。だから、ドライバーも家があったぞ、川があったぞ、橋あるぞって伝えますし、そういったいろんな情報でナビがコマ図と「答え合わせ」をしながら進んでいくんです。一度コースを走って、ペースノートを作って、次は何度のカーブがあるよ!とナビが常に知らせてくれるラリーと違って、このラリーはひとつひとつのコマを答え合わせしていくラリーなんで、その確認作業にドライバーもしっかり加わることが大切なんです。だから、速いドライバーはそりゃ速く走れるでしょうけど、それはあくまでハイスピードセクションで速いだけであって、迷うとこだったり、ヌタヌタだったり、それこそジャングルの中だったりすると、こういったナビとのコンビネーションとか、ある程度の経験値がモノをいうんです。それが、カリカリにチューンされたマシンに挑む僕らの「武器」なんです。

やっぱり経験が大切ですか?
ドライバー:伊藤芳朗 選手

私も今回7回か8回目なんで、そろそろベテランの域になってきちゃったなあという感じですが、この経験値を活かして次もがんばっていきたいと思います。まあ、今年はちょっと難しかったですね。地形的にもクルマ的にも。でも、山岳は面白いですよね。昨年までのように、平野のプランテーションの中をチョイと塞いで警備員がアッチだ! コッチだ!って言うような単純なコースじゃなかったですから。こっちのほうが差がハッキリ出るし面白いです。それにしても篠塚さんはすごいですね。クルマは壊さないし、ぶつけないし。しかもあの速度で。やっぱり “レジェンド” ですね。篠塚さんの経験に学ぶところは多いです。


AUTO部門 総合8位/T1G(改造車ガソリン)クラス2位
♯124 塙 郁夫/赤星大二郎(TEAM JAOS)

塙さん、初めてのアジアXCラリーはいかがでしたか?
ドライバー:塙 郁夫 選手

あのね、みんながこのラリーにのめり込む理由はよくわかったよ。闇鍋でいろんなものが入ってて、そのうち美味しいものが当たるんじゃないかと思って、多分続けちゃうんだろうな。面白いよ。ちょっと未完成なところも面白い。走ってみてわかったけど、このラリーはバハ1000とも違うしモンゴルのラリーとも違うんだよね。単純にスピードの話をするなら、目をつり上げながら速く走んなきゃ!っていう部類のものじゃない。でも逆に、どんなにドライバーが頑張ってもそれだけじゃ絶対に勝てないし、どんなにクルマが良くても勝てない。ドライバーとナビとクルマ、この3つが本当に上手く噛み合った時しか上位に行けないんだ。逆に言うと、そこにアマチュアが上位に行けるチャンスもあるわけで。それにね、毎日いろんなハプニングがあるしアドベンチャーもある。普段仲間とワイワイガヤガヤやっている延長線上にラリーがあって、一週間笑いながら楽しめる。そういうところも魅力なんじゃないかな。そうかといって勝つのが簡単か、といえば、決してそうじゃない。本気で勝ちに行こうと思ったら、5番手以降のタイムでスタートしていてはダメ。路面がどんどん痛んでいってしまう上に、前車がスタックすると抜け場がないことが多いから。だから大きなミスをせず、全てにバランスをとってコンスタントに上位の成績を残しながら勝負することが大切。その意味で、ドライビングもナビゲーションもマシンも一度の失敗が命取り。一度下がったスタート順からリカバリーするのは並大抵のことではないからね。そういう意味ではとてもシビアなレースだとも思う。あと付け加えるなら「みんなルールは守ろうよ!」ってことかな。まあ初挑戦の今年は、とにかく大切なマシンを無事ゴールに運ぶことができてよかったよ!

赤星さん、久し振りの参戦、いかがでしたか?
ナビゲーター:赤星大二郎 選手

このアジアXCラリーへの参戦は塙さんとのちょっとしたやりとりがきっかけで始まったことなんですが、それがJAOS 創立30周年の事業と繋がり、気がつけば多くの方の御協力が得られるようになって、なんだかトントン拍子に、そして雪だるま式に話が大きくなって、こうして TEAM JAOS として小さいながらも自前の体勢を組んで参戦させていただくことができました。まずはこの場をお借りして、ご声援をいただいていた皆さん、御協力してくださった皆さんに心から御礼を申しあげたいと思います。本当にありがとうございました。

私にとっても本当に久し振り。10年振りの参戦でした。でもこのラリーはアウェイ感が全くなくて、すごくアットホームで、エントラントみんなの絆の深さを感じることができました。塙さんのおっしゃるように未完成なところも魅力ですけど、コース内外の助け合いだったり、ドライバーはドライバーと、ナビはナビ、サービスはサービスでいろんな輪ができるし、競技だけではない、アジアのフレンドシップ的な面でもすごく魅力のあるラリーでした。ブランクはありましたけど再びチャレンジできて本当によかったです。

収穫のある一週間でしたか?

そうですね。競技に関しては課題はハッキリしました。やっぱり、ナビとドライバーとメカの息がピッタリシンクロした時があって、それが昨日(Leg5/総合3位)だったり、Leg2(総合4位)やLeg4(総合6位)だったわけですが、その好成績が「点」ではなくて「線」になるようにコンスタントに続けなくてはいけません。でも、そこがうまく行かなくて一度大きく失敗してしまうとしっかりリザルトに反映されてしまう。そういう厳しい側面もまたラリーという競技の魅力なのかなと思います。一発の輝きを追いかけるスプリントとは違って、ラリーには人生とか、あるいは会社経営によく似たものを感じます。とにかく、今年はチームのみんながいい働きをしてくれました。いつもいい雰囲気で我々を迎えてくれましたし。日本で応援してくださっているファンの方々と、そしてこのチーム全員の働きがあって、こうして笑顔でパーティーに出席できているのかなと思うと、本当にありがたい話です。今回のラリーには若手も誘って来たのですが、彼らの中には次世代の主役になって行く子達もいます。そういった若手を僕らが努力してひっぱりあげて行けるような存在にならないとなな、という使命感も感じました。まだ来年どうするか決めてはいませんが、また機会があればぜひチャレンジしたいな、と思います。


■大会唯一の女性ドライバーにインタビュー
♯131 ROSLYN SHEN/CYNTHIA CHEN(i. TAIWAN RALLY TEAM/Mitsubishi Strada)

クルマの故障で思うように走れなかったように見えましたが…今年のラリーはいかがでしたか?

ううん。とても面白かったわ。なぜって、今年は私が初めてドライバーとして出場した大会だから! 新しいチャレンジだし、新しいコ・ドライバーと一緒にコンビを組めたし! 彼女はとても若く、でもその分、ラリーに初出場した時の私のようにあらゆる経験が足りないの。だから私は、彼女にいろいろ教えたわ。最初は彼女がいろいろ理解できなくて、でも日に日によくなってきて、そして今日はSSもリエゾンもとってもよかった! だから、私達はこのラリーをエンジョイできたって、心からそう思ってるの!


MOTO部門 総合優勝
♯11 池町佳生 選手(Team FB JAPAN A/GASGAS EC250)

優勝おめでとうございます。今年を振り返って、いかがでしたか?

去年は結構なスピードコースだったし、ナビゲーションも今回のようにトリッキーな感じではなかったんですよね。でも今年は笹さんの昔のアジア・エンデューロで設定されていたような、トリッキーなナビゲーションステージが多かったですよね。まあ、僕的にはナビゲーションが得意なのでよかったかな、と思っています。今年のような山岳ステージでは道が曲がりくねってアップダウンも激しいし、変化があって面白いですよね。特にバイクには。AUTOの人達の「スピードがでない」という話はチラと聞きましたけど、危険度を考えたらあれぐらいのほうがいいのかな、っていう気がしています。まあ、バイクはこういったほうが楽しいんですよね。ドラマも多いし。それに暑いかな、と覚悟していたら初日や二日目は標高が高くて涼しかったりしたんで、それもよかったですね。

来年も出場されますか?

そうですね。いつも出る方向で考えています。まあ今回は急遽レンタルバイクで参戦したので来年はちゃんと準備して…って毎年言ってますけど(笑)、チームFBでまた来られればね、いいですよね。


MOTO部門 総合2位
♯17 Ryu Myunggul 選手(Team KOREA/KTM 450EXC-R)

準優勝おめでとうございます。Ryuさんは韓国のエンデューロ・チャンピオンでいらっしゃいますよね。その視点から、今年のラリーの感想をお聞かせください。

私はラリーモンゴリアにも2回出場しているのですが、そんな私の目から見ても、アジアクロスカントリーラリーはとてもタフ&ハードな競技だと思います。コースは凹凸も多く、アップダウンが激しく、泥場もキツイ。ナビゲーションも難しいです。結構チャレンジングなラリーで、1日走るだけでも結構疲れます。2012年に初めてこのラリーに出た時は、タイヤやスペアパーツなどの準備が万全じゃない状態で走ってしまったのですが、2度目の挑戦となる今年はしっかり準備してきました。だからいいコンディションで戦えたのだと思います。それが成績に表れましたね。

来年も出場されますか?

まだ、ノープランです。でも多分来ちゃうと思います!


MOTO部門 総合3位
♯20 Magnus Osterberg 選手(RALLY RAID SWEDEN/HUSQVARNA FE501)

3位おめでとうございます。アジアクロスカントリーラリーは相性がいいですか?

実はね、僕にとってルートブック(コマ図)を使う最初のラリーがこのアジアクロスカントリーラリーだったんだ。2013年にも出場して、今年は2回目なんだよ。そして前回も3位、今回も3位。なかなかいい相性だよね。でも前回はライダーが17人しかいなかったんだ。だから今年43台のエントラントの中で勝ち取った3位はまた違った意味を持っているよね。とはいえ、今回は幾つかミステイクをしてしまった。チームメイトに給油して5、6分かかったこともあったけど、ま、それはいいとしてミスコースで23分失ってしまったこともあった。総合のタイム差を考えると、あのミスコースがなかったらなあ、と思うよ(笑)

このラリーで一番楽しかったことを教えてください。

バイクにずっと乗れたことさ。僕はライディング自体が大好きなんだ。だから、400kmとか500kmといったロングステージは大好き。長く乗り続けても、それでも最後までプッシュし続けるのが僕のスタイルだからね。本当に楽しかったよ!


■超ベテランライダーにインタビュー
♯21 石井 進 選手(Team FB JAPAN B/YAMAHA WR450F)

全日程を終えてみていかがでしたか?

正直ホッとしています(笑)。人生経験は長いけれども、ラリーは何があるかわからないから、今こうしてセレモニアルパーティーに居られることにホッとしています。ラリーの序盤、1日目とか2日目はちょっとお腹の調子が悪くてツラかったんですけど後半はだいぶよくなったし、楽しんで走っていました。今年は特に速い人が多かったせいか順位が真ん中から下のほうになってしまったので、途中からもう順位とか勝敗はあんまり関係なく走ることに専念していました。そしたらかえっていろんな雑念がなく、心から楽しみながら走ることができました。

このラリーをオススメしたい人はいますか?

そうですねぇ。チョイと長くオフロードのバイクに乗ってる人だったら、チャレンジしてみるのも楽しいんじゃないかな、と思いますよ。ただ走るだけじゃなく、コマ図を読んだり、国籍を超えてライダー同士が助け合ったり、そういったいろんな要素全てが混ざり合ってひとつのレースが成り立っていて、このラリーはなんとも言えない魅力がありますね。


最後に中央自動車大学校のインタビューをご紹介しよう。同校はここ数年アジアXCラリーに派遣学生を送り、学生にメカニックとしての経験を積んでもらう「ステップアッププログラム」という取り組みを続けている。異国の地で行われるラリーで現場メカニックとして働くと作業に責任が生じ、それが競技に直結するのは当たり前。仕事は待っているだけでは満足してもらえず、コミュニケーションも自分で取らなければならず、時には夜を徹する修理作業に遭遇したり…と普段学校で与えられる環境よりずっとハード。でもそれを経験することで「学生がひと周りもふた周りも大きくなって帰って来る」と関係者にも好評で、今年はさらに学生の人数を増やしての参加となった。具体的に誰がどのチームでメカニックをしていたのかご紹介しておこう。

甲斐君AUTO部門Team JIMNY♯109 竹野/柳川 組
♯110 篠塚/千葉 組
♯127 西村/道畑 組
柴田君MOTO部門Team JAPAN
大橋君
鈴木君
AUTO部門♯117 新井/保井 組
♯128 浅井/CHOU 組
♯118 飯島/深野 組
ほか三菱チームの補助
國奥先生AUTO部門Team JAPAN

中央自動車大学校では学校長の正示 彰さんをはじめ多くの関係者が現地入りされていたが、インタビューは副校長の小谷さんにさせていただき、学生からは甲斐君に登場してもらった。


中央自動車大学校 小谷秀則 副校長
学生を派遣するこの活動にはどういう意味があるのでしょうか?

これは中央自動車大学校の「ステップアッププログラム」という取り組みです。学校の中で勉強できることって、机の上であったり実習であったり、それはそれで大切なものなのですが、それだけじゃなく実際に外に出て、学校の中では勉強できない経験を積ませてあげたいなと、そういう観点から行っているものです。対象は卒業を間近に控えた一級の四年生です。彼らが四年間一生懸命がんばってきた、そのご褒美としての側面もあるんです。優秀な子っていうよりもどちらかというと四年間頑張った子を表彰して連れてきています。彼らが社会に出てすぐにこういうレースの仕事をするわけではないんですが、将来の経験として役立ててもらえたらな、と思ってこういう活動をしています。


中央自動車大学校 学生 甲斐賢正 君
今回のラリー、メカニックとして参加してどうでしたか?

クラスでも数名しか参加できないメカニックに選ばれた使命感と「何事も経験」という気持ちでひとつでも多くの知識と経験値を身につけたいと思い、参加を決意しました。でも現場は想像以上に過酷でしたね。最初はもうちょっとゆっくりやれるのかなって思っていたんですけど、そんな余裕は全くありませんでした。でも大変だった分、元気で走っているクルマを見ると、なんか感動しちゃいますよね。来て本当によかったと思います。

一番辛かったことはなんでしょう?

整備が辛かったとかいうことはありません。それよりも、いろいろコース内でアクシデントがあって、ドライバーさんが落ち込んで帰って来るのを見るのが辛かったですね。

一番嬉しかったことは?

うれしかったのはやっぱり、マシンが軽快に順調に走っているのをみることですね。メカニックとして、それが一番うれしかったですね!


これにて、20周年を飾った “FEDERAL-VESSEL Asia Cross-Country Rally 2015” は閉幕する。期間中、ひとつひとつのSSが通過点でしかなかったように、20年という大きな時の流れの中では、今年のラリーもまたひとつの通過点でしかないのかも知れない。でも参加した皆さんの記憶の中ではひと際大きく輝いているに違いない。嬉しかったひとも悔しかったひとも、楽しかった人もマシンがままならず憂鬱な夜を過ごした人も…エントラントとファンと主催者と。いろんな想いを飲み込んでラリーはこの先も続き、そして再び帰ってくる。来年もまたこの地で集わんことを!

デイリーリポート 文:河村 大  写真:高橋 学・芳澤直樹・小原賢晃

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