息をもつかせぬ山岳地帯の戦い
序盤戦を制したのは誰だ?

午前3時。ホテル横のピットからはトンテンカンテンとボディーを鈑金したり、サンダーを回すような音がひっきりなしに響いてくる。ラリー序盤戦を終え、いよいよメカニック徹夜組のチームが登場した。彼らは恐らく朝までエンドレスに働き続けることだろう。というのも、Leg2のセクションで深刻なダメージを追ったマシンが急増したからだ。

まず、♯131 i. TAIWAN RALLY TEAM Roslyn SHEN / Cynthia CHEN 組。Leg1のスタート時から続く電気的なトラブルが解消しない。この日もスタートから続く急坂を満足なパワーで登ることができず「私のクルマでは登れない」と途中から引き返すことになってしまう。ロスリン選手(台湾)はお馴染みアジアXCラリーのアイドル。ナビの シンシア・チェン選手は 台湾フォードのエスケープなどでこのラリーを席捲していたあの Ho Huang CHEN 選手の娘さんだ。2日前のセレモニアルスタートの日、100回は優に越えるだろうと思われる記念撮影を笑顔でこなし「アイ・ラブ・タイランド!」と連呼し続けていた彼女達が笑顔で走れる日が来ることを、選手・関係者誰もが望んでいることだろう。

続いて♯112 TWO & FOUR MOTORSPORTS Takatsugu AOKI / Wuttichai TRITHARA 組。三菱最新技術の粋を集めたアウトランダーPHEVも Leg1の渡河中に電気的な故障で一時ストップしてしまう、など小さなトラブルがあったが、この日はSS中にフェンダーやフロントガラスを失うほどの事故を起こしてしまった模様。原因の詳細はまだ不明だが、SSのゴールではついぞその姿を見ることができなかった。青木選手はこれまでの2年間、他の本格4WD車より明らかに地上高の低いアウトランダーを駆り、しかも「プラグインハイブリッド」という電気制御のカタマリのようなマシンを超本格派のクロスカントリーラリーに持ち込み、ゴールまでしっかり導いて「新時代のラリー車造り」を世界に発信し続けてきただけに、今年もぜひ復活して欲しいものだ。

さらに♯117 PROPAK WORLD RALLY TEAM Toshi ARAI / Takahiro YASUI 組。いすず D-MAXで出場していたニッポン・ラリー界の雄にして唯一の WRC シリーズチャンピオン、新井敏弘 選手も自走不能の状態に。聞けばSS中、前を抜くために後ろにピッタリつけていたまさにその時、前走車が左右に踊り出して電柱に激突。避ける間もなく追突し、ラジエターを含むクルマの前部を大破させてしまったという。こちらもSS後に続く延々350kmのリエゾンを牽引で走り切り、深夜になって到着した。障害の程度はやはり重いらしく、11日のLeg3は朝のスタートだけしてSSは走らず、修理に専念する模様。Leg1の成績がよかっただけに、あの走りをもう一度、と願うファンも多いはずだ。メカニックの奮起に期待しよう。

また、♯118 SRS-OSAKA with WELPORT-CARS Yuichi IIJIMA / Masayuki FUKANO組。いすず D-MAX で参戦している彼らはこのLeg2で敢え無くエンジンストップ。「圧縮も抜けてしまって押しがけしても何してももはやエンジンがかからない状態」とのことで、SSの後に続く350キロのリエゾン手前で自走不能に。こちらはその後詳細な情報が入ってこないが、かなり深刻な状態と思われる。

そのほか、タイ勢の♯126 Sakarin TASANAVIRIYAKUL / Thanu CHANMUANG / Khunathip CHANMUANG 組 のトヨタ ヴィーゴ、♯129 TWO&FOUR MOTORSPORTS Tasanai RATTANAWISAYD / Kittisak KLINCHAN / Paitoon PIUSANAH 組のパジェロスポーツも今日は8時間のペナルティー。そのほか戦列を離れたマシンも2台ほどあり、戦いは序盤からかなりの荒れ模様となっている。


#102 Wichawat CHOTIRAVEE (THA) / Athikij SRIMONGKOL (THA)

さてここで、この日のLeg2がいったいどんなコースだったのか、そのご紹介をしておこう。総走行距離は496.80km。うちSSは132.42km。そしてSSゴール後の移動区間(リエゾン)は 356.38kmという“超”の付くロングタスク。

リエゾンに与えられるターゲットタイムも6時間に設定され、単純に考えても時速60km以上のアベレージを維持しなければならず、これを越えてしまうとペナルティーが与えられるとあって、時間的な余裕はなく、修理すらままならぬまま東京-大阪間に相当する距離を延々走り続けなければならない。というわけで、SSでトラブルを抱えたマシンは軒並みペナルティーを加えられたわけだが、これがなんと「8時間」ともはや上位に挽回できぬまでに大きい。四輪では先にお伝えした6台が、2輪では4台がこの「魔の手」にひっかかり、マシンのダメージとともに優勝戦線から大きく後退した。

ではSSはどんなコースだったのか。ここでは素晴らしい記憶力でSSの全容を語ってくれた篠塚健次郎選手の言葉をお借りしつつ、ご紹介しておこうと思う。

「今日はね、とっても道がわるくてものすごい、凸凹が多くて、轍もなんかいっぱいできてて、舗装してあったコンクリートが割れちゃったような道の悪いところが全体の3割くらいあったな。あとはもう凸凹の土の路面が4割くらい。全体的にはとても狭くて日本の林道みたいな感じなんだけど、日本の林道よりも勾配が登りも下りもキツイ。そういうところが40%くらいで、マッディーなところが3割くらいあった。泥場は中くらいに滑るところと、ものすごいどうしようもないようなところがあった。あれはもうタイヤがいいだの悪いだの、そういうレベルの話ではなくて、ああなっちゃうともうどんなタイヤでも一緒だと思う。あとは結構ハイスピードでね気持ち良くピュ〜と走れるようなところは、3割くらいっていう感じ」

※この数字はマッディかドライか、あるいは土かコンクリート崩れの道か、といった異なるものを尺度にしているので全てを足して100%になるという話ではないのであしからず。

#110 Kenjiro SHINOZUKA (JPN) / Eiji CHIBA (JPN)

さらに篠塚選手は続ける。

「で、我々はいずれにしても今日のようにアップダウンの激しい道だと四駆のローレンジでしかパワーないんで、メインはローギアの3速。それが全体の半分くらいかな。そして下りが4速なんだよね。だから3速が50%くらい、2速と4速が20%ずつ、あとは5速と1速が5%ずつ。1速はね、登りのヘアピンで速度が落ちたところで、さらに壁のような登りが始まるところ。もう、本当にキツかったよ」

とのこと。これで、コースの概要はほぼご理解いただけよう。 そして篠塚選手にとっては「今日みたいなコースだとね、ジムニーはホイールベースが短いから、ポーンポーンって飛び跳ねちゃうんだよね。ピッチングがキツい。あとは轍とかに入る時も、やっぱりホイールベース短いので、前が左右に急激に振られる。それがね、ちょっと難しいかったかな」と語ってくださった。

さらに「今日130何kmあったでしょ。90kmくらい走ったところでガソリンメーターがエンプティー指しちゃったのね。エンプティー表示でも大体10リッターくらい残っている、というのは知っている。でも10リッターだと、30km、40kmくらいしか走れない。そうするとちょっとヤバイかな…という話で、最後40kmはもう走行会かってくらいゆっくり走らざるを得なかったよ」とのこと。

そう。この日は燃費的にも相当厳しい戦いとなったのだ。そのあたりは最後にご紹介するトップ選手のコメントをご参照いただきたい。

とにかく、SSの1/3にあたる距離を流して走ってもデイリーで7位になってしまう篠塚選手。ナビの千葉選手曰く「まだ全開で走っていない」とのことなので、中盤、終盤にかけてこの“レジェンド”の走りを注目していていただきたい。


そしてデイリーのトップは 昨日のLeg1に続き ♯101 The Landtransport Association of Thailand Singha Isuzu Team Nuttapon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組のイスズ D-MAX。昨年も優勝したタイ期待の若手は、今年もまた安定した強さを見せつけている。続く2位もやはり地元タイ勢。 ♯102 Isuzu Yokohama Delo Sport Wichawat CHOTIRAVEE / Athikij SRIMONGKOL 組で、こちらもLeg1の3位から順位をひとつ繰り上げ、虎視眈々と優勝を狙っている。


♯124 TEAM JAOS Ikuo HANAWA / Daijiro AKAHOSHI

そんなトップグループのタイチームに対し、遜色ないタイムで気を吐いた日本勢が FJクルーザーの ♯124 TEAM JAOS Ikuo HANAWA / Daijiro AKAHOSHI 組。

このチームは日本のアフター・カーパーツメーカー “JAOS” が創立30周年を記念して立ち上げたチーム。同社の赤星大二郎社長がナビで参戦するとあって、日本ではかなり話題になっているのだが、ドライバーを買って出た塙選手も、クロスカントリーマシンの競技の世界では “超” のつく一流レーサー。国内のオフロード選手権シリーズで自ら仕上げたマシンを駆使して10連覇を果たした後はメキシコのバハ・カリフォルニア州で行われるバハ1000でもクラス優勝などの活躍をし続け、並み居る強豪達から高い評価を受けている唯一の日本人四輪ドライバーだ。

このユニークなカップリングがチームとして目指しているのはあくまで30周年記念事業の一環としての「アジアクロスカントリーラリー完走」だ。ノーマルのFJクルーザーにエアロバンパーやアンダーガードなどのJAOS製品を多数装着ているといっても、大幅に軽量化が施されているわけではなく、どちらかというとノーマルに近い設定。それでもこのタイムを出せるのは、ひとえに塙選手のドライビングと、アジアXCラリー10年目とはいえナビの経験豊富な赤星選手の息がピッタリ合っているからに他ならない。ただし、ガソリン勢トップに立ったいま、毎日の走行後にほぼ新車に生まれ変わるワークス体勢ともいえるディーゼルの上位タイチームに真っ向からタイム勝負を挑むつもりはなく、このポジションからプレッシャーをかけて行く作戦とのことだった。

AUTO部門

1st #101 Nuttapon ANGRITTHANON (THA) / Peerapong SOMBUTWONG (THA)
2nd #102 Wichawat CHOTIRAVEE (THA) / Athikij SRIMONGKOL (THA)
3rd #125 Olan SARNSIRIRAT (THA) / Somkiat NOICHARD (THA)


この日、二輪でトップに立ったのは前日3位から躍進した韓国の ♯17 Team KOREA RYU Myunggul 選手(KTM 450EXC-R)。「昨日は特にSS前半のレグがスリッピーでチャレンジングだったけど、今日はもっと滑るコースだったね。実際、僕も下りのマッディーなところで2回スリップダウンしたんだ。ほら、両腕にも傷が残ってるでしょ(笑)でもね、それ以外はセイフリーでセイフティーなドライビングを心がけた。リザルトを見てトップタイムだったんでビックリしたけど、明日もがんばるよ!」 とのこと。彼は韓国国内の選手権では強さが証明されていたものの、国際大会ではその実力は未知数、という評価だったが、ここへきて一気に優勝候補として注目が集まるようになってきた。

そして続く2番手は前日5位、タイの ♯12 Core Motorsport Thailand Sumeatee TRAKULCHAI 選手(Honda XR250)。3番手は前日2位、日本の ♯1 Team FB JAPAN A Keisuke MAEDA 選手(KTM 525EXC)となった。前田選手は1番のゼッケンからお分かりいただけるように昨年のチャンピオン。この日はデイリートップ賞に1万バーツの賞金がかけられたこともあって、トップを積極的に狙っていったという。

この前田選手のコメントが面白い。

「今日もね、トップ狙って走ってたんですよ。昨日トップの江連さんにも追いついてパスして、しばらくはふたりでランデブーしてたんだけど、江連さんがちょっとミスコースしてしまって、いなくなって、ゴール10km手前まで単独トップで走ってたんだけど、そこでガス欠しちゃいましてね。10分ほどロスってしまいました。民家もほとんどないところで、それでも5、6軒の村があって、すみません!すみません!と叫んでたら窓開けてくれて、その人がきてくれて、ガソリンないか? といったらなんか長老さんの家みたいなところに連れていってくれて、そこにガソリンがあって、そこでいれてもらったんですよ(笑)」

そのロスがあったのに3位ですか!? と突っ込みを入れたくなるような話だが、燃費が辛くなったにはそれなりの理由があったらしい。

「このSSは135kmでしょ。いやー、日本だったら150km手前で燃料がなくなるなってことはまずありえないんですけどね。舗装路が前半30kmくらいあったんですよ。そこで無茶してですね。もう、全開、全開で走ってしまったので、あれでだいぶ燃費が計算とズレてしまったですね。まあ、賞金に目がくらんで残り10kmが走れなかったワケですよ(笑)。でも賞金のためにニュータイヤつけて走ったので、1万バーツ、欲しかったなあ。明日もまあ、賞金レースなんでミスなくプッシュしていきますよ!」

とのこと。やはり、二輪で国際大会を走るような選手は度量が大きいというか器が大きい。彼らはきっと、何がおきても動じない。そんなオーラーを体中からプンプン匂わせている。このMOTO勢の戦いも、中盤戦に入って目が離せないものになるだろう。

MOTO部門

1st #17 RYU Myunggul (KOR)
2nd #12 Sumeatee TRAKULCHAI (THA)
3rd #20 Magnus OSTERBERG (SWE)

さあ、明日のLeg3は「ナビ勝負!」と言われているコース。高低差はさほどなく、道はフラットになるものの、コマ図を見ると曲がり角だらけ。少しでも気を抜けばたちまちミスコースしてしまうような設定だ。

主催者側は、序盤にマッディでアップダウンだらけの山岳路を持ってくることで、エンジンのかかりが遅い選手達に強烈なプレッシャーをかけ、その後の “超ロング” リエゾンでは「タイムペナルティー」の洗礼と矢継ぎ早の攻撃。そして中盤のフラットなコースでは、ナビゲーターの度量試しと、その手を緩めることを知らない。果たしてこの中盤の神経戦を大きな失敗なく、くぐり抜けて来るのはどのチームなのか?
2015年の記念大会はさらに目が離せない展開になってきた!


選手コメント

♯120 青野選手 Bandit Japan Yasuhisa AONO / Masanori UEDA 組(SUZUKI Escudo)

「今日は“下り”をがんばってみました。攻めてみると、あ、結構いけるわ。あ、ブレーキ効くわ。あ、曲がれるわ、と。結構突っ込めました。楽しかったす。でもコースはヌルヌルで大変でした。クルマはキャンバーが少しポジキャンになってしまいましたが多分大丈夫です。」


♯106 伊藤選手 TAGA meets NAIRAN Yoshiro ITO / Takeshi HIRAKA(ISUZU D-MAX)

「クルマ的にトラブルはなかったんですけど、一部分赤土のヌタヌタなところがあって…接地感がまったくないんです。そこでちょっとミスってしまってガケから落っこちかけて、カンボジアのタコマにひっぱってもらいました。その後はタイヤのエアをぬいて、ペースを落としましたよ。いやー泥とガケの組み合わせがハンパなく怖い。滑ってるときは死ぬ!と思う。滑ってる間、ナビと何回も会話ができるくらい滑りっぱなし。今日は、ディーゼルとか大きくて重いクルマには厳しい一日だったですね」


♯128 浅井選手 Michihiro ASAI / Teen CHOU (Mitsubishi Pajero Evolution)

「SSでは80km地点で塙選手に追いつかれて、でもその後は120km地点までずっと後ろに付かせてもらったんです。あの塙選手のドライビングをずっと見られる絶好のチャンスでしたからね。おかげさまでデイリー5位なんてタイムを出すことができました。肩慣らしのつもりがちょっと良すぎだな、という印象なので明日はちょっと抑えて迷路で迷わないようにしよう!と思っています」


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