いきなり始まった山岳路の洗礼
MOTO部門は転倒者続出

さあ、いよいよ競技が始まった。ラリーではこの日を起点に競技1日目を第1レグ、二日目を第2レグとカウントする。そして、それぞれのレグに移動区間(リエゾン ステージ/RS)とタイム計測区間(スペシャル ステージ/SS)が設けられており、今年は基本的に1つの LEG が2つのRS と1のSSで成り立っている。つまり、ホテルを出て リエゾン で SS へ向かい、SS が終わればまた リエゾン で次のホテルへ向かう。これを繰り返すことでラリーが進んでいく。

唯一、LEG5だけはプレを出てプレへ戻るループコースが設定されているが、こうして毎日場所を変え、時には国境をも越えながら、未知の道を走り続けられるのがアジアクロスカントリーラリーの魅力だ。残念ながら今年は当初計画されていたミャンマーへのルートが安全上の理由からキャンセルされてしまったが、それでもチェンマイを起点に2400km以上を移動する。

サーキットで行われるレースのほうが抜き所や公平性、整備性や安全性といった点で軍配が上がるかもしれないが、まだ見ぬ世界を訪れ、刻々と変わり行く空気を肌で感じ、同じ釜の飯を食べながら一期一会の景色をひた走るラリーにはまた、サーキットでは得られない魅力がある。

同じタイ国内でもこれだけ移動すれば、気温や天気はもちろん、路面の状況からコースの難度、そして沿道の村々や人々の反応も変わってくる。では今大会の序盤戦はいったいどんな土地柄で、いったいどのように始まったのか? まずはその辺りからお伝えしよう。


今日のレグはタイ第2の都市 チェンマイ から北西の山岳路を抜け、山間の盆地に開けた小都市 メーホンソンへと向かう道だ。タイと言えば平野。誰もがチャオプラヤー川の周りに広がる肥沃な大地をイメージすると思うが、実は北部には2000m級の山々も存在する。「避暑地」として知られるチェンマイも標高約300mと比較的高地にあるのが、そこからミャンマー国境に近いメーホンソンへ至る道はなかなかに刺激的だ。

道は曲がりくねり、その傾斜もハンパない。舗装路でラリーを追うメディア用4WD車やサービス用ハイエースですら1速を使わねば登れないような坂がしばしば。標高を上げるにつれ、熱帯雨林から竹林へと景色もどんどん変わって行く。気温も下がり、まるで日本の林道にいるような錯覚に陥ってしまう。でもひとつだけ日本とは似ても似つかないものがある。それは、未舗装路の傾斜だ。

大多数の国民が平野を生活の拠点としているからだろう。彼らは基本的に山あいの高所を結ぶ「陸橋」や「トンネル」を造らない。道は山肌を縫って曲がりくねり、傾斜も山肌に合わせて造られる。日本のように山を巡りながら徐々に高度を上げる、なんて回りくどいことはせず、未舗装路であっても勢い、アップダウンの斜度が激しくなりがちなのだ。

今年はいきなりそんな地形に放り込まれた。特に、高速フラットダートがメインだった近年のアジアXCラリーしか知らない選手には驚きだったに違いない。

おまけに前日来の雨で路面は十分に水を吸っている。低地には水がたまって極悪な泥場と化し、山肌を流れる雨水は柔らかな土を削り、太いクレバスとなってタイヤを待ち構える。さらに都合が悪いのは、このクレバスが谷へ向かってパックリ口を開けていること。水は低いほうに流れるだけに当然と言えば当然なのだが、ここにタイヤを落としたら最後、ガケ下へ誘導されてしまう。

じゃあ、軽いジムニーが有利なのか? といえばそうでもない。競技後、ジムニーのドライバーは口を揃えてこう語っていた。「コーナーも尾根もローレンジのローギアじゃないと登れない…」。言うまでもなくロー/ローの鈍足ではタイムレースに著しく不利。軽い分、下りではマシンコントロールに一日の長があるが、貧弱なエンジンパワーでは登り坂でからきしタイムが稼げない…。なんとも一筋縄ではいかないSSだったのだ。

この日のSSは全長175km、マックスタイムは6時間。中盤に PC が設けられており、その直前でいったん計時をストップ。PC後の再スタートで再び計時が始まり、前後半の加算タイムで競われる。ところが前半の序盤で一般車両が立ち往生してコースを塞いでしまうトラブルがあり、そこをすり抜けることができないAUTO勢は前半戦がキャンセルとなってしまった。リザルトでMOTO部門とタイムが大きく異なるのはそのためだ。

ちなみにPCとは燃料の給油が可能で、少々の時間なら整備も行えるサービスポイントのこと。もちろんサービスのチームを持たぬ二輪勢や四輪のプライベーターでは出来ることは限られるのだが、SSの計時が止められている間に少しでもマシンや体力のリカバリーができる、という意味では貴重な場所だ。

そしてPC後の後半戦も路面状況がマシとはいえ、重いAUTOクラスではやはり滑りやすく、アップダウンの傾斜も厳しいまま。全車ともに難しいマシンコントロールに悩まされた。中盤には川の水がボンネットを覆い尽くすような渡河ポイントも出現。二輪は吊り橋を使ってエスケープできたものの、四輪は深い水深から這い上がることが難しく、水による電装系トラブルやラインの読み間違いからスタックするマシンもあったという。

ではパワー/ウェイトレシオに優れ、身軽で下りの慣性の少ないMOTOクラスは楽に走れたのか?その答えはPCで観察しているだけで理解できた。続々と入ってくるライダーの多くが上半身泥まみれになっていたのだ。単なる泥ハネではない。転倒によるものだ。転倒時のスピードはさほど速くはなさそうだったが、百戦錬磨のツワモノどもが揃いも揃って転ぶのだからその難しさがよく分かる。それでも皆、嬉々とした笑顔で燃料を入れ、壊れたステップなんぞを溶接やグラインダー作業であっという間に直して走り去って行くのだから、ラリーに挑むライダー達はホントに強い。何かあったら「痛い」どこの騒ぎじゃ済まず、マシンをケアするどころか病院に行くことすら一苦労になるだろうに、そんなネガティブなことを考える以上に走ることそのものが好きなのだ。

アジアXCラリーはもともと四輪車のラリーだ。それが、3年前からMOTO部門の併催が始まり、実は筆者自身も今年初めてライダーにインタビューしている。が、何があっても自分の体ひとつで完結させてしまう彼らの胆力と、何があっても動じない生き様は新鮮。AUTOの選手達とはまたひと味違う魅力を垣間見ることができる。

というわけでこの日、MOTOクラスでトップ4に入った2人の日本人にインタビューさせていただいたのでまずはそちらからご覧いただこう。転倒者が続出したMOTOクラスでは、一度も転倒しなかった ♯3 江連忠男選手がトップ、次いで昨年の覇者 ♯1の前田啓介選手が69秒の僅差で2位、そして3位、♯17 韓国の Ryu Myunggul 選手を挟んで ♯11 の 池町佳生選手 が4位につけている。

ちなみに、現在のアジアXCラリーは 二輪勢 のスタートが 四輪勢 より40分早く行われるようになっており、身軽な彼らがミスコースでもしない限り、四輪がコースを荒らしてしまう前にゴールできるとあって、トラブルさえなければホテルへ帰る時間も比較的早く、翌日の整備や準備、ホテルでの夕食(主にバイキング)のタイミングは以前より無理なく選べるようになっている。もちろんその分朝も早く、四輪中心に組み立てられた長距離のリエゾンでは体力的に相当辛いのだが、それはカテゴリーを越えて比べてもせんないこと。詳しくは参戦しながら毎夜のブログ投稿という離れ業を行っていた♯39 宮崎 大吾 選手の文章が素晴らしく参考になるので要チェック! なのである。

『ダートスポーツ』アジアXCラリーのデイリーレポート
http://www.zokeisha.co.jp/dirtsports/archives/18015

『GARRRR WEB』AXCR2015 取材レポート
http://www.bikebros.co.jp/vb/offroad/extreme/e-rally/e-rally-15/


MOTO部門

1st #3 Tadao EZURE (JPN)

今日はずっと山岳路で、期待していた通りのスリッピーな路面だった。すっごいスリッピーだよ。もうスケートリンクのような状態。それでアップダウンがあるから、まあほとんどみんな転んでるよね。僕は転ばなかったからトップになっているだけで。下りなんかね、もう全然止まらないんよ。ツーって滑っていく。前後半で言えばPC手前のほうがテクニカルなコースだった。アップダウンも結構厳しかったし、路面も荒れてたし。PC越えて後半のSSは日本の林道みたいな感じで、そんなにぬかるんでいなかったし意外に軽快に走れたよ。景色もよかったしね。景色がバーンって抜けるところもあって。


2nd #1 Keisuke MAEDA (JPN)
3rd #17 RYU Myunggul (KOR)

4th #11 Yoshio IKEMACHI (JPN)

いやあ、今日のコースは凶悪に滑った。本当テカテカで。四輪は前半キャンセルになったんでしょ? 正直、あそこをクルマが走ったら落ちると思う。え? 落ちたらどうなるかって?落ちたら森の中に消えて行くと思う(笑)。らくだの背みたいな道だったよ。僕はもう、アクセル開けても閉めても滑るから、クラッチ切って…つまり駆動力をカットしてみたんだけど、それでも滑るんだよ。危なかった。本当にスケートリンクのようだった。転んだかって? うん。今日は2回転んでミスコースも2回しちゃったよ。コース中盤に吊り橋があったでしょう。あそこを渡ってると後半1/3くらいで自分が走った揺れが振幅を増してきちゃうんですよ。吊り橋全体が揺れちゃうから。僕も途中から揺れ出してヤベヤベって駆け抜けたけど、途中で止まっちゃった人もいるんですよ。あそこ、止まったら止まったで大変なんですけどね(笑)明日? 明日は何もなければいいなぁ(笑)。順位はね、まだ初日なんで何とも言えないですよ。だって、まだ5分とか10分以内にごろごろいるでしょ。先は長いしね。


5th #12 Sumeatee TRAKULCHAI (THA)

AUTO部門

1st #101 Nuttapon ANGRITTHANON (THA) / Peerapong SOMBUTWONG (THA)
2nd #111 Paitoon THAMMASIRIKUL (THA) / Thanyaphat MEENIL (THA)
3rd #102 Wichawat CHOTIRAVEE (THA) / Athikij SRIMONGKOL (THA)

4th #117 Toshi ARAI (JPN) / Takahiro YASUI (JPN)
(PROPAK WORLD RALLY TEAM/ISUZU D-MAX)

4番時計? まあ初日だからね。まだわかんないよ。実は例の渡河ポイントで前車がスタックしてて、3〜4分ほど待ってた時間があったんだけど、渡ってみてありゃたまげたよ。だって水がボンネットの上全部覆ってフロントガラスも見えなくなって…。水没するかと思ったよ。ナビの保井さんも「踏んで! 踏んで!」ってもう車内がパニックさ(笑)。あんなに深い川、渡ったことないねぇ。今日はね、リアの左のサスペンションが取れちゃったんだよ。ショックごと。でも独立懸架じゃないし、リーフサスだとなんとなく走れちゃんだよね。あとね、ブレーキパッドがノーマルなんで下りでフェードしちゃってね。聞いたらオリジナルだって。持つわけないよねぇ。
でも道がさ、ラリーオーストラリアみたいな感じなんだよ。あとはねギリシャとかキプロスなんかに近い道。いいよねえ。ペースノートがあったら全開なんだけどなあ。でも、バイクとかミスコースの競技車とか、時々入ってきちゃう一般車のことを考えると、やっぱり全開は無理だよねえ。


5th #105 Takuma AOKI (JPN) / Ittipon SIMARAKS (THA) / Katsuhiko SHIINE (JPN)

10th #106 Yoshiro ITO (JPN) / Takeshi HIRAKA (JPN)
(TAGA meets NAIRAN/ISUZU D-MAX)

今日はですね、大きなトラブルもなくみんな団子状態。1位のジョップ(♯101 Nuttapon Angritthanon選手)は別格として、トップ15くらいまでのタイムはほぼ団子ですね。抜くとこもなかったですし。みんなほんのちょっとのタイム差。でも、キャンセルになった前半コースが二輪選手のいうようにヌタヌタだったのなら、それこそ僕らの出番です。クロスカントリーの得意な「伏兵」なんですから(笑)。トラックがスタックしていた、あの先に行きたかったですねえ。まあ、まだまだ初日。競技はこれから。ボチボチ行きますよ。


15th #128 Michihiro ASAI (JPN) / Teen CHOU (TWN)
(Mitsubishi Pajero Evolution)

今日はクルマの確認とナビゲーターとの相性のチェックです。彼と組むのは2年振りなので、そういった再確認に重点を置いた一日でした。ある意味、ソツなく走れましたね。今年は、前回と違って80リッターの安全タンクを追加したので燃費面ではだいぶ心強いです。リエゾン対策はそれでいいとして、あとはコースがスリッピー過ぎるので、明日は今日以上に気を付けていこうかなと思います。ツーと滑ってドンってどこかにぶつかっちゃったらそこで終わりですからね。今年はね、ちょっと朽ち果てかけてたこのパジェロエボリューションを復活させるのに、中央自動車大学校の学生さんにイチから協力してもらったんですよ。もう、パーツも少なくなる中いろいろかき集めてね、交換してセッティング出して、そういう学生さんみんなの想いが背中に乗っているので、それをコース途中で捨てて帰ってくるわけにはいかないんですよ。はい。クラッシュなんてできません。何が何でも、もう意地でもゴールしないと。ここの、運転席の天井にも色紙が貼ってあるんですよ。ホラここに。これがあるのとないのと、大違いです。ちょっと調子に乗りそうになっても「天井チラ」みたいな。みんなに恩返しができるように頑張りたいと思います。


25th #120 Yasuhisa AONO (JPN) / Masanori UEDA (JPN)
(Bandit Japan/SUZUKI ESCUDO)

登りがキツかった。登って下って、下って登って、結構標高のある山をいくつも超えましたよ。峠がホントにキツかったですね。これで雨が降ったら本当に大変なことになってたと思います。タイって基本、山がないじゃないですか。だからこういう地形ってアジアクロスカントリーラリーでは珍しいですよね。さっき♯109 竹野さんのジムニーがローのローでしか登らなかった、という話出てましたけど、僕もローで登ったんですよ。


#110 Kenjiro SHINOZUKA (JPN) / Eiji CHIBA (JPN)
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