超難関ナビゲーションコースが
エントラントに襲いかかる!

タイ北部の都チェンマイを起点に始まったラリーは、そのまま西方のミャンマー国境を舐めるように円を描きながら南下、総延長2422kmのうち900km弱を消化して、戦いはいよいよ中盤戦に突入した。今日は基本、東に向かうルートで行われる。

前半戦は標高が高く、道がつづら折りに曲がりくねり、アップダウンも激しい山岳路を中心に行われたが、この日は太陽に向かって走る朝のリエゾン中盤から平地が広がりはじめ、SSのスタート近くまで来ると見渡す限り平らな地形に。ダート区間は硬く締まった白い土の路面が続くようになり、強烈な日差しが照りつける中、クルマが通るたびに激しい砂埃が巻き起こされるような状況。コマ図に示されているクリーク(小川)にもほとんど水がなく、昨日までとはうって変わり、フラットでドライな高速ステージへと趣を変え始めていた。ある意味、ここ数年のアジアクロスカントリーラリーで見慣れたような景色が続くようになったのだ。

では前半よりイージーなのか? といえばそれは違う。前夜に渡されたコマ図を見れば、数百メートル、あるいは数十メートルごとにポイントが設けられ、ドライバーの隣に座るナビゲーターの仕事が極端に忙しくなることが必至の状況。今大会屈指の「ナビ・セクション」であることは誰もが走る前から理解していた。

思い起こしてみれば、このアジアクロスカントリーラリーでは、2、3年に一度はナビの技量が徹底的に問われるSSが意図的に用意されることがあるのだが、まさにこのLeg3がそんな難関コースとしてエントラントの前に立ちはだかってきたのだった。

特に難しかったのはSS80kmポイントあたりのコマ図。ここでほとんど全てのチームがミスコース。諦めて戻っても、そこがもはやオンコース上なのかすらわからず、自車位置をロストしてしまうチームが続出した。

こんな時、四輪で何よりも大切なのはナビゲーターの技量なのだが、実はそれだけでも悪化してゆく状況を効率よく打破するだけの決定打とはなりえない。ミスコースして自車位置をロストし始めたナビゲーターは不安いっぱいになるのだが、そんな状況を快方へ導く際に、狭い車内空間の中で大なり小なりのいがみ合いが起きていては何にもならない。そう、ドライバーとナビゲーターの精神的協業が何よりも大切になってくるのだ。状況の悪化を違いのせいになすりつけるのはとても簡単なのだが、その時すでに、車内では心のロストポジションが始まっている、と言っても過言ではない。

同様に、ミスコースをコマ図のせいにするのも簡単だが、それでもやはり状況は改善しない。もちろん時にはコマ図を疑うことも必要だが、それは最小限の可能性として処理していかないと、コマ図ラリーの根本に疑念を抱いてしまうと、その瞬間から自分の立ち位置そのものを見失ってしまうことになる。

サービスエリアの一コマ

ではこの日、この難セクションでロストポジションしつつも、比較的短いタイムで抜けだしてきたチームでは、その車内でいったいどんなやりとりが行われたのか? 彼らはなぜ他のチームより早くゴールに辿りつけたのか…そのあたりの様子を2番時計のタイムをたたき出した篠塚健次郎選手のチームを例に見ていくことにしたいと思う。昨日のレポートでも同じチームを引用させていただいたので少々気が引けるのだが、アウェイで初参戦というハンデを持つ彼らが今日、地元タイのチームをも差し置き、圧倒的に早いタイムで帰って来たことに疑念を差し挟む余地はないだろう。インタビューさせていただいたのはナビの千葉栄二選手である。

冒頭、千葉選手は照れくさげに「まあ、運がよかったってことにしましょう」と笑っていたのだが、例え運がよかったとしても、それだけでは解決できなかったのが今日の難コース。そのあたりを伺うと「結論から言って、僕らがミスコース、ロストコースしてないのかっていうと、僕らも当然のごとくミスもロストもしていたんです。だからとにかく、もうおかしい!と思ったら今の道戻って! というやりとりを何度もしていました。まあ裏話でいうと今日は篠塚さんと一回、怒鳴り合いの喧嘩をしているんですよね。でも、昨夏出場したラリーモンゴリアの時にふたりで条約を作っていて、“怒ったところで何も解決しないから、力を合わせよう”って話にしているんです。四つの目が必要な時は四つの目で見る、みたいな協業体勢ですね。で、私も嘘はつかず、怪しい時にはちゃんと自己申告するんです。ちょっといまおかしいけどとりあえず真っ直ぐ、みたいな感じで。で、コマも道も両方覚えておいて、やっぱり違うよ戻って! ってことを繰り返すんですね。で、今日、お互いが険悪になって篠塚さんが勝手に戻っちゃった時もあったんですよ。タイのクルマがあっち行ったから、戻って追っかけちゃうみたいな。でもやっぱりナビは自分に自信を持ってなきゃいけないから、俺のほうがコース合ってるからこのまま行ってよ! って説得したら健次郎さん条約を思い出したのか、ごめんごめん俺が悪かったって言ってくれたんですよ。それが、50kmくらいのポイントかな。そこで仲直りですよ」

そう。実は前日のインタビューの時に奇しくも「ナビがテンパっている時に怒鳴っても何にも解決しないから、ちゃんと協力しながらやらなきゃね」と語っていた篠塚選手。そのタイミングでカッカ来ていた頭を冷やし、千葉選手に謝ることで車内空間が一変したという。

「とにかく重要なのは、迷ったらちょっとスピード落として、確認すること。そして自分が迷っているアピールもすること。今ロスト。オンコースだけどロストって。そして例えば、四つ先に橋があるっていうことだったらもうラッキーとか。仮にコースを戻るにしても、ナビは半分はコマ図読んでいて見てない景色もあるから、そこはドライバーも一緒に確認してもらうんです。あとは、地元勢だからってタイ人に付いていかない。僕は自分しか信じていないから必ず我を通しています。でも、それで間違ったらごめんなさいって誤ればいい。自分でコマ図を読んでちゃんと確認していってるワケだから、前のクルマがどっちに行こうが、俺はコッチだったらコッチって言うようにしてるんですよ。それが、ナビがナビの仕事に責任を持つってことですよね。ま、今日はそれが結果オーライにもなったのかな、と思っています」

なるほど。篠塚選手のようなベテランになってもやはり怒鳴りたくなるような感情を持ってしまう。狭い空間で一週間も10日間も一緒に過ごしていると、ナビと大声で喧嘩だってしてしまう。でも、そんな車内空間を一瞬でリセットしてしまう術を知っている。そしてナビは自分を信じ、ドライバーはナビを信じ、そして時には四つの目で協業して難コースに当たる。当たり前のようで、実際にやろうとしたらとても難しいことなのに、それを有言実行していたが故に、このチームは今日、早かったのだ。

確かに、今日は車幅の小さなジムニーが有利だったかもしれない。でも、それだけではない何かが、あの狭い車内空間で働いていた、と考えるほうが他の方にも参考になると思うのだがいかがだろうか。

いずれにせよ、今日はほとんど全てのチームがロストポジションし、迷って走っているうちに燃料が足りなくなる、という悪循環にハマッたチームも多かった。そして仮に難コースをクリアしても、「SSをスタートしてから6時間を越えるとペナルティを与える」というルールの餌食になったチームも多数存在した。このペナルティーが痛いほど大きく、今日のSSで四輪の順位は大きく、大きく動いたのだ。

AUTO部門

トップを余裕で守るナッタポン選手は水冷のスーツを纏う
1st #101 Nuttapon ANGRITTHANON (THA) / Peerapong SOMBUTWONG (THA)
2nd #110 Kenjiro SHINOZUKA (JPN) / Eiji CHIBA (JPN)
3rd #122 Songyos THEINTHONG (THA) / Sombut NOICHAN (THA)

#128 Michihiro ASAI (JPN) / Teen CHOU (TWN)
プライベーターとしては驚異の5番手スタートだった浅井組は、2駆と4駆を切りかえるレバーが破損するという不運なトラブルに見舞われた。9番手に大きく順位を落とした。

同じ事が二輪でも起きた。日本人エントラントだけみても、前日までトップに肉薄できていなかった池町選手がダントツの短時間でSSをクリア、代わりに大きく順位を下げてしまった選手もいた。詳しくはページ最下段のリザルトをご覧いただきたい。

MOTO部門

1st #42 Jakkrit CHAWTALE (THA)
2nd #2 Koun PHANDARA (CAM)
3rd #14 Manoch ABDULKAREE (THA)

今年のアジアクロスカントリーラリーは本当にキツい。山岳路の洗礼が終わったと思ったら、こんどはナビゲーションの洗礼。そして明日は、今大会最長となる243kmのSSが待ち受けている。この中盤戦をクリアしなければ、ゴールは見えてこない。さあ、明日はどんな戦いが繰り広げられるのか。お楽しみに!


選手コメント

♯124 赤星選手 TEAM JAOS Ikuo HANAWA / Daijiro AKAHOSHI(TOYOTA FJ Cruiser)

つらい日でした。80キロ地点あたりでミスコースがはじまって、ラリー車が10台、15台くらい団子になって道を探し始めて、周りのタイチームのナビももうお手上げ。僕らはガス欠もちょっと気になっていたんで、うっかりすると遭難しかねない状況の中で、周りのクルマと集団で行動することにしたんです。結果は6時間10分。マキシマムタイムが6時間だったので、ペナルティーをいただいてしまいました。でもまだ3日あるんで、巻き返していきたいです。本当に、毎日いろんなことが起きますね。思い通りにいかないのもまた、ラリーならではのことですね。でもほんと、アジアンラリーはいつもエントラントがいい雰囲気ですし。僕も10年振りなんですけど、やっぱり面白いです!


♯118 深野選手 SRS-OSAKA with WELPORT-CARS Yuichi IIJIMA / Masayuki FUKANO(ISUZU D-MAX)

初日にヘッドガスケットを交換したんですけど、それで直らず、今日朝からヘッド交換。でもやっぱりダメなんですよ。昨日のホテルで直して、今日のホテルへ来る間も水温あがっちゃって。一応、エンジンを変える方向で、調整しているんですが、エンジンの手配がまだつかないんです。ですから明日はSS入って、ちょっと怪しければ出てきちゃうつもりです。でも、まだ諦めないですよ!


♯106 伊藤選手 TAGA meets NAIRAN Yoshiro ITO / Takeshi HIRAKA(ISUZU D-MAX)

とにかく迷っている時はもうみんな右往左往してて、薮の中に10台くらいいたのかな。そこからばっと散ってばっと戻って来て、相談して、タイ人もわかんないから日本人に聞いてくるし、あっちいって何があったこっちいって何があったとか…。だいたい、その時点でトータル距離がもう80kmの人と90kmくらいの人がいて、既に10kmくらいコマがズレていましたから、もうムチャクチャです。でも私は昨日の結果が悪くて、スタートが遅くなったのが結果としてよかったのかもしれません。結局、ジャングルの中でみんな団子になって、その団子で一緒になってゴールしたからラッキーだったのかと。その後、PCスタート後の後半はあまり迷うところはなく、でも5、6分は迷いましたがコマを一個戻ると大体見つかりました。


♯109 竹野選手 KONYUDOU-KUN with Garage MONCHI Jimny Japan
Satoshi TAKENO / Naoyuki YANAGAWA(SUZUKI Jimny)

昨日は登り坂でクルマのパワーが足りず、ストレスがたまってましたね。で、今日は平地で幅も狭いし、好きなコースだったんです。でもそれがオーバースピードにつながったんですね。今までにないくらい調子がよかったんです。クルマもすごくいい仕上がりでした。でも、68km付近で立木に衝突、フレームに直撃したのでエンジンやラジエターは壊れなかったのですが、フレーム10cmくらい曲がって奥に入ってしまいました。エンジンマウントは千切れてエンジンが傾くし、ステアリングロッドは奥に入ってしまってハンドルが全くきれないですし…。でもとりあえず、木とフレームをストラップで固定してしゃくってひっぱって直しました。まだ修理中ですが、一応走れます。ふたりともケガはないんで、明日からはキッチリ帰ってこれるように走ります!明日の朝までに直しますよ!



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