2nd ♯107 Paitoon THAMMASIRIKUL / Somkiat NOICHAD 組(イスズ D-MAX)

今年最長となるハイスピードSSの洗礼

初日のLEG1はパタヤから南東のチャンタブリへ向かう248.12kmの道のり。競技は基本的に同じコース上で二輪→四輪の順で行われ、二輪のトップバッター♯1池町選手は朝6時にホテル前を出発する。その後、MOTOの46名が1分間隔でスタートし、その最後尾から1時間空けてAUTO(四輪)の20台が2分間隔で出発する。

こうして始まる最初のRS(ロードセクション)は基本的に公道だ。交通ルールを守りながらコマ地図の通りに移動する。この日は内陸に向かう143.26kmを2時間30分のターゲットタイム内に移動することが求められた。その後順次始まるSS(スペシャルステージ)のスタートに遅れればタイムペナルティの加算と、ラリーはこの後、積算タイムによる順位付けで進んでいく。

続くSSはタイム計測が行われる競争セクション。実はこの日与えられていた216.29kmのSSが大会期間中最も長く、ここを6時間のマックスタイム内に走らねばやはりペナルティが発生する。

コースのコンディションは基本的にドライ。ただし、木立の日陰や毎日のスコールで雨水が溜まりやすいところでは一部マッディな路面もあり、深い轍に足を取られたり、誤ってコースから飛び出してしまったライダーやチームもいた模様。また、ドライでフラットなハイスピードコースと侮っていると所々に大きな穴が隠れており、それが連続しているような場所も多く、思うようにスピードの出せないセクションもあったと言う。とはいえ、四輪勢では5速で140〜150kmのトップスピードが稼げたというチームもあり、平均速度は高めで、オーバー200kmという長さを感じさせないSSだったようだ。

ただし、深い穴や段差から受けるシャーシーやサスペンションのダメージは深刻で、穴の手前で頻繁に使わねばならぬブレーキと合わせ、狭い路面であまりラインを選べぬ四輪勢にとっては「マシンに過酷」という意見が多く、ここで深刻なトラブルを抱えたチームが続出した。四輪勢にとってはこのトラブルを翌朝のスタートまでに解決し、無事乗り切れるかどうかという意味で、ラリー最初の「ふるい」がかけられたようだ。

またSSにはコース中盤にPCが設けられ、スタートから行われるタイム計測はそこで一旦ストップ。その後二輪は1分間隔で、四輪は2分間隔で再スタートするようになっているが、この間にサポートチームによる整備を受けることが可能。短い休みなのでシリアスなダメージを直すのは難しいが、こういった場所でのサポート体制も勝敗に大きく影響する。また、二輪はここでガソリンが給油できるようになっており、四輪と同じ距離でも戦えるようになっている。

♯5 Jakkrit CHAWTALE 選手(タイ)

さて、二輪勢でこのSSをトップタイムで駆け抜けたのは♯5の Jakkrit CHAWTALE 選手(タイ)。前半はトップスタートの♯1池町佳生選手(日本)が最速タイムで飛び込んできたものの、後半で軽いミスコースを何度かしてしまい、ステディにクリアしてきた Jakkrit選手に逆転を許し、2位に甘んじた模様。

基本ドライのコースとはいえ、腰まで浸かるような泥沼などもあり、幾人かの選手はこの泥にかなり悩まされた様子。また、エンジントラブルでクルマにピックアップされた選手や、RS中にタイヤがバーストしてSSを断念した選手、ガス欠になった選手など、レース序盤にして大幅にタイムを落としてしまった選手も見受けられた。

こうした二輪勢の戦いでは、「今日も○回転んだ」「コースアウトした」というアクシデントは日常茶飯事。その結果、マシンへのダメージのみならず、うちみや捻挫、骨折といった形でライダーの体を徐々にむしばみ、順位に大きく影響していく。対して四輪はこれらのダメージがマシンのシャーシーやサスペンション、駆動系をむしばんでいくことが多く、このSSでも多くの四輪マシンがトラブルをかかえることになった。

♯102 篠塚建次郎 / 千葉栄二 組

例えば2台のタタ Xenon勢。♯103 、♯122 ともにコース中盤で右フロントのアッパーアームのトラブルで立ち往生。♯102 の 篠塚建次郎 / 千葉栄二 組のジムニーも右フロントのダンパーマウントが千切れるトラブルがあり、スローダウンを余儀なくさせられている。昨年2位だったこのチームは他にも駆動系のトラブルやオーバーヒートによってペースを上げることができなくなっており、篠塚選手も「サスの修理が終わっても6割7割のペースにしか戻せない状況。しばらくはがまんの戦いになる」とコメントしている。

そんな中、何食わぬ顔でゴールに一番乗りしてきたのは昨年の覇者 ♯101 Nuttapon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組(イスズ D-MAX)。MOTO、AUTOを通じて唯一2時間台のタイムを記録しており、今年も万全なスタートダッシュをかけている。

♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(トヨタ ハイラックス・レボ)

続く2位は6番手スタートからジャンプアップした ♯107 Paitoon THAMMASIRIKUL / Somkiat NOICHAD 組(イスズ D-MAX)。3位には6台をゴボウ抜きにした ♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(トヨタ ハイラックス・レボ)がつけてきた。やはり日本人唯一のアジアXCラリー覇者である。このラリーがスタート順によって順位が大きく左右されてしまうことを熟知しており、長丁場のSSでしっかり前に出ることに成功している。

♯112 の 青木孝次 / Roslyn SHEN 組(イスズ D-MAX)

また♯112 の 青木孝次 / Roslyn SHEN 組(イスズ D-MAX)も11番スタートながら6番手まで順位を上げており、この日は実力者やベテラン勢の順当な活躍が目立っていた。続く7番手は ♯116 TEAM JAOS の 能戸智徳 / 赤星大二郎 組(ハイラックス・レボ)が、8番手には♯ 110の チーム GEOLANDAR Mu-X takuma-GP(イスズ D-MAX)がつけ、虎視眈々と上位を狙っている。

アジアクロスカントリーラリー2016の初日はハイスピード・ダートともいえる高速コンディションになったものの実は「雨が降っていれば、帰ってこられないチームが続出してもおかしくなかった」という意見も多く、このスピードレンジは主催者が狙ったものではなく、「たまたま雨が降らなかった」と考えたほうが合理的だ。このラリーらしいマッディなコースの出現は、今後の天候次第と言っていいだろう。(河村大)

【MOTO】初日からそれなりにハプニングが続出するから面白い

#2 前田選手の走りはカメラの前でモーターサイクルのカッコよさを見せつけてくれる。

選手によって初日のステージに挑む精神状態はさまざま。とくにSS(スペシャルステージ)をどのように終えるかで、翌日以降の走りが大きく変わってくる。その気持ちがファインダー越しにもなんとなく伝わってくるから不思議だ。安定した異次元の速さを見せる#1 池町選手や、躍動感あふれる走りの#2 前田選手、堅実・着実な走りの#3 江連選手(いずれもTeam FB Japan)はさておき、ライディングスキルや国籍が違ったとしても、この大会にかける意気込みは個々にある。

強すぎる日差しや激しいスコールも無かった初日は、吹き続ける風が涼しく比較的走りやすい天候だった。走り終えた日本人選手によると、それでも彼らを苦しめたポイントはおおまかに3つ。マフラーまで沈んでしまいそうな深く大きな水たまり(泥沼に等しい)、深い轍のマディな路面、そしてガス欠だ。

コースコンディションはありのままを受け入れるのみだが、ガス欠はさまざまな要因が重なって起きた人的トラブルと言うしかない。別に誰が悪いということではなく、文字通り「さまざまな要因」によるものなのだ。それ以上でも以下でもない。

初日のSSは距離216.29kmで今大会最長。2日目からは短いながらもさらにテクニカルなコースが設定されており、広大な大陸をズバンと駆け抜けるラリーとは一味違って、とにかく細かいのが本大会の特徴と言える。選手の口からは「忙しいし疲れる」との声が多く聞かれた。

マシントラブルはいくつかあったものの事故やケガ人も無かった初日が終わり、明日はタイ国内最後のステージでフィニッシュポイントは国境を越えたカンボジアとなる。競技車両に乗ったまま、ターゲットタイム内に通関する。通行も日本とは逆になるので、選手たちはより注意が必要だ。(田中善介)

#1 Yoshio IKEMACHI(JPN) / #5 Jakkrit CHAWTALE(THA)
#21 Susumu ISHII(JPN)
#42 Seiji IYAMA(JPN)
本日のメグちゃん「初日だからと様子見のつもりだったけど、フラットダートが気持ち良くてつい勝負への欲が出ちゃって、カーブで曲がり切れず危うく転ぶところでした…。女性の場合、1回の転倒でも車体を起こすのに相当体力を奪われるので、とにかく転ばないようにと慎重に走りました。いまだかつてない深さの泥沼も、乗ったままクリアできたのは本当に嬉しかった! いろいろヤバそうな場面はあったけど、とにかくアクセルを開けて行ったのが良かったと思います。これから整備しなきゃ〜」
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