SS5 / SS6

アジアクロスカントリーラリー史上最速?
赤土の上の超高速バトル!

大会4日目は海沿いの町シアヌークビルから首都プノンペンへ到る道のり。SSは31km(SS5)と94km(SS6)の2か所が用意されていた。

特に2本目のSSは選手の間でも「アジアクロスカントリーの歴史の中でも最速じゃないのか?」 と声も挙がった高速セクション。二輪、四輪ともにトップグループは平均時速100kmを軽く越える超高速戦の様相を呈していた。

好タイムで快走する ♯116 能戸知徳 / 赤星大二郎(日本 ハイラックス・レボ)

前日の「FB杯」に続き、トップ3人の選手に賞金が与えられる「VESSEL杯」が用意されていたため、選手のヤル気もいやが上にも高まっていたのだ。

ここで活躍したのが4人の日本人の選手達。二輪では上位3人を、四輪ではトップ賞を日本人が獲得した。特に四輪の ♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(トヨタ ハイラックス・レボ)は二本目のSSで平均時速110kmを越える驚異的なタイムを叩き出し、見事トップ賞を獲得。総合でも順位をひとつ上げて2位に躍り出た。初日のスタート順から数えると、なんと11台のゴボウ抜き。ついに昨年の覇者 ♯101 Nuttapon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組(イスズ D-MAX)の背後まで迫ることに成功した。ただし4日目までの積算タイムでは13分以上の差がついてしまっており、王者Nuttapon 選手のステディな走りから考えると、何らかのトラブルが関係しない限りこのタイム差を跳ね返すのは難しいと思われる。今後はむしろ、熟成され尽くされたハイパワーD-MAX勢に対し、このポジションをキープできるのか? というポイントが見所になっていくだろう。

♯1 池町佳生(日本)

そして二輪。ここでも凄まじいトップ争いが演じられた。ハイライトは2本目のSSで行われた ♯1 池町佳生(日本)の走り。スタートから追い上げてトップに追いついた後、超高速で抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げていたが、お互いが撒き散らす砂埃が酷くて視界が確保できず、ついにはふたり一緒にコースアウトしてしまったという。そこからマシンを起こし、体勢を立て直してゴールしたタイムがトップ賞だというから恐れ入る。

しかも池町選手はこの時、両腕にケガを負ってしまい、右腕には木の枝が刺さってしまっていたという。それをロードセクション後、プノンペンに到着してから手術して抜いてきた、というから恐れ入る。もちろん、明日も走る気満々。右腕は恐らくパンパンに腫れ上がるだろうに…。この人の辞書に不可能という文字はないのかも知れない。

というわけで、本日のVESSEL賞は以下のようになった。

■VESSEL賞(MOTO)
1st :♯1 Yoshio IKEMACHI(日本)
2nd :♯2 Keisuke MAEDA(日本)
3rd :♯38 Takuya IZUMOTO(日本)
■VESSEL賞(AUTO)
1st :♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(日本&タイ トヨタ ハイラックス・レボ)
2nd :♯119 Bandit PANTHITA / Phairote PONGSAPAN組(タイ・イスズ D-MAX)
3rd :♯109 Wichawat CHOTIRAVEE THA Chonlanut PHOPIPAT(タイ イスズ D-MAX)

もちろん、トップグループ以外でも様々なドラマが繰り広げられた。ハイスピードSS故に、ほんの僅かな油断で転倒やコースアウトなどが起きてしまったり、コマ図に一瞬ついて行けなかったばかりにミスコースしてしまったり。中には池に落ちて水没してしまったライダーもいたのだ。それでもマシンを引き上げ、エンジンから水を抜いてゴールしてくるのだから、2輪の選手は本当にタフで整備に関しても自己完結できてしまうのだなあ、と感心する。

中には地元の観戦者にコースを簡易な策でふさがれた上、わざわざあさっての方向を教えられる、という手の込んだいたずらを受けたライダーもいたという。迷ったあげく現場に戻ってきた時にその柵はなく、件の地元民は道路脇で笑っていた、という話だ。
 反対に、地元の人々に助けられたエントラントもいた。SS7の超高速の直角コーナーでは、横倒しの転倒を喫してしまったり、脇の溝で止まってしまう四輪勢がいたのだが、この時は2、30人の観客がクルマを起こしたり押してくれたりしたという。
 そんな話を聞くに付け、いろんな意味でこのアジアクロスカントリーラリーがカンボジアの人々の間に浸透してきたことが窺える。

そしてこの日、2本のSSを終えた選手達は100kmのロードセクションを経てカンボジアの首都プノンペンへ。近代化された町に右を向いても左を向いても溢れかえるトヨタのクルマ。それも、レクサスのSUVが凄まじく多い状況を目の当たりにし、ゴール地となった カンボジアナホテルの豪華さに、すぐ先の郊外まで続いていた田園地帯とのギャップに驚かされてしまったが、それもこれも、今すさまじい勢いで発展を続けるカンボジアの魅力だといっていいのだろう。

なお、ホテルでは7時から大広間でバイキング形式のディナーが始まり、そこで♯110の 青木拓磨選手 が足の不自由なカンボジアの人々に介護用の車椅子20脚をお贈りするセレモニーが行われた。

これは「タクマ キープスマイリングプロジェクト」の一環として青木拓磨さんが国内の介護サービス業(東洋シルバーサービス)に働きかけてこの日のために用意したもの。それを当ラリーの主催者 笹忠之がカンボジア政府関係者に働きかけてプロジェクトが成就。その事業を記念するために関係者を集めてセレモニーが執り行われたのだ。

したがってこの日のディナーにはカンボジアの観光省の大臣、スポーツ振興の大臣、あるいは内務副大臣(カンボジアモータースポーツ協会の会長を兼任)、そして在カンボジアのタイ大使といったそうそうたる面々が一堂に会し、このプロジェクトの成功を祝っていた。笹いわく、会食は成功裏に進み、先方からは「カンボジアと日本の友好のために、今後もこういった取り組みを続けて行って欲しい」と強く依頼されたというから、こういった青木拓磨選手のサーキット外での活躍についても今後継続的にエールを送って行きたいと笹は語っていた。

そして、この華やかなディナーパーティを区切りに、ラリーは終盤戦へ突入する。アンコールワットまでの戦いは残すところあと2日。とはいえ、最終日はゴールセレモニーを意識して短めに設定されているため、ロングタスクの戦いは明日のLEG5が最後となる。2016年のアジアクロスカントリーラリーはここまで大きな波乱もなく順調に経過してきたが、このLEG5に、主催者がエントラントに対して最後の「ふるい」を意図的にかけてくる可能性は大いにある。それが厳しい路面状況なのか、はたまた難しいコマ図セクションなのか、あるいは何の障害もなく終わっていくのか、真相はまだ薮の中だが、戦いの火ぶたは間もなく切って落とされようとしている。次のレポートをお楽しみに!(河村 大)

【MOTO】カンボジアのダートで最高速アタック!?

#15 Chattai PHRUETISAN (THA)

カンボジアで迎える大会4日目、次の宿泊地まで318.89kmの設定。その間に2つのSSをクリアする。昨日のハイスピードコースに引き続き、本日もスロットルを開けやすいルートが待っていた。突然のスコールに見舞われ視界を奪われた選手もいたようだが、それよりもタイヤが巻き上げる土埃のほうが深刻だ。乾燥した土は簡単に煙幕となり、後続車は先の状況を把握できない。ハイペースで相手と先を争う場面では、後ろを走るほうが圧倒的に不利だし、かなりの危険を伴う。

SA(サービスエリア)や宿泊地へ到着してみると、誰それが池に落ちた、林に突っ込んだ、コーナーをまっすぐ飛んで土手の茂みに落下したなど、不安な情報が次々と耳に入ってくる。前日のハイスピードセクションと違うのは、直線全開でほぼ直角に曲がる、道幅は広いがお互い速度域が高いため無茶はできない、フラットダートだが深い穴や水たまりが所々に現れる、などだ。

昨日からの流れを見ると、スピードに慣れて油断を誘うシナリオがあるような気がする。レースに危険が伴うのは当然のことで、それを忘れると痛い目に合うのだ。その一方、何事も無ければ早めにホテルへ辿り着ける設定で、トップグループは明日に備える時間が十分にあり、身体を休めることもできる。そうやって速いライダーは常にコンディションをキープし、遅いライダーはマシンも身体も十分なメンテナンスが出来ない。そういう循環がラリーにはある。

本大会もいよいよ折り返しだ。異国の地をモーターサイクルで走る、その土地の空気を肌で感じる、高級ホテルでリゾート気分を味わう…。そんな時間も残りわずかなのだ(田中善介)。

#11 Sumaetee TRAKULCHAI (THA)
#47 Takuya ONO (JPN)
2本目のSSを終えてSAへ向かう途中、カンボジアの幹線道路に点在する現地人たちの生活空間を通り抜ける。
本日のメグちゃん「やられた〜! 現地人のイタズラでSSの途中でコースアウトしまいました! 明らかにオンルートなのに、柵を置いて私有地だから迂回しろ、みんなも行ったぞ、なんて(怒)! おかげでタイムロス。でも、これもラリーですよね。来年は現地人にも負けないタフさで行きます! 今年は完全に負けました! アジアの洗礼を受けました…」
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