♯2 Keisuke MAEDA

加速し始めた「アジアクロスカントリーラリー」らしさ

2日目の朝は雨で始まった。この日はタイのチャンタブリからカンボジアのコッコンへと到る約250kmのルート。朝方ホテルを出て40kmのロードセクション(RS)を走り、80kmのスペシャルステージ(SS)でタイムを競い、120kmのRSを経てカンボジア国境に到る、という動きになる。

SSが短く感じるが、これは国境越えをスムーズに行うため。競技区間で大きなダメージを負ってしまうと到着が遅れてしまい、出入国の手続きに支障が出る、という判断によるものだ。SSもいつもよりやさしめの設定だと言われていた。

ところが朝方に降った雨がコースを変えていく。二輪のスタート後にもスコールが降り、水を含んだ赤土が ヌルヌル を通り超して ツルツル のスケートリンクを作り出していったという。それが アップ & ダウン の急な地形と組み合わさり、エントラントの前に立ちはだかって来たのだ。

こうして足元がおぼつかなくなってくると重力とのバランスの上に成り立っている二輪勢は辛い。ツルツルの路面の下りではタイヤがロックしてしまい、登りでは坂を上がりきれずに滑り落ちて来てしまう…。あちこちで転倒者が続出した。コースアウトする選手もいたという。唯一の救いはこういったアクシデントがペースを落とした速度域で起きていたこと。いずれも、深刻なダメージには到らなかったらしい。

1st ♯2 前田啓介選手(左)、3rd ♯3 江連忠男選手(右)

この状況でトップタイムを叩き出したのは「前日のうっぷんを存分にはらした」という ♯2 前田啓介選手。一回は転倒したものの「キライじゃない」という極悪マッド路面でダントツの速さを見せてくれた。

2番手はカンボジアの ♯25 Daravuth CHAN 選手。赤土のウェット路面には慣れているのか、前田選手に迫る好タイムを記録した。続く3番時計は ♯3 江連忠男選手が記録した。

ちなみに、昨日までトップを快走していた池町佳生選手は痛恨のミスコース。出走前にマップ変更が発表されていた場所で間違えたまま気付かずに20〜30kmあまり走ってしまい、オンコースへ戻るまでに30分近くタイムをロスしてしまったという。この日は28番手のタイムで総合順位も1位から4位に転落。変わって ♯5の Jakkrit CHAWTALE 選手(タイ)が総合のトップへ躍り出た。

この時点で総合順位上位10名の顔ぶれはタイ選手が2名、スウェーデン選手が4名、日本選手が4名といった陣容。この三つ巴の戦いが中盤戦でどうなっていくのか? 目が離せない展開になってきた。

1st ♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(トヨタ ハイラックス・レボ)

四輪は昨日3位にジャンプアップした♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(トヨタ ハイラックス・レボ)が二輪勢の最速タイムを10分近く上回る走りでデイリー・トップの成績に。総合順位もひとつ上げ、ここ数年敵無し状態でひたすら独走し続けてきた ♯101 Nuttapon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組(イスズ D-MAX)を射程に捕らえようか、という位置につけてきた。

とはいえ新堀選手は「今年はダンパー&スプリング以外ほぼノーマルなマシンを最後まで走らせ、データ取りすることが目的」と語っていたので、早急に勝負をかけるような無茶はしてこないかも知れない。

続くデイリー2位はその ♯101 Nuttapon / Peerapong 組。3位には ♯112 青木孝次 / Roslyn SHEN 組(イスズ D-MAX)、4位にはカンボジアの ♯121 Phal SOPHENG / Kim Houth 組(トヨタ タコマ)が続いた。

4th ♯121 Phal SOPHENG / Kim Houth 組

四輪選手にとっても今日の路面状況は難しかったらしく、トップ選手は口を揃えて「赤土にグラベル(砂利道)、ターマック(アスファルト)、コンクリートにグラストラック(草)など、目まぐるしく変わる路面に瞬時に対応できるかどうかがキモ」と分析した。ただし、そのポイントさえ分かっていれば、コース上の穴 などの障害物は少なく、サスペンションを壊すような日ではなかったという。

とはいえこの日限りで国境を前に戦列を去ったチームもあった。ドライバーとナビゲーターという最小単位のプライベート参戦でここ3年、7位、5位、4位と着実にステップアップしてきた ♯105 Yoshiro ITO / Takeshi HIRAKA 組だ。初日からその兆候が現れていたのだが、2日目のSSが始まって30kmほどのポイントでエンジンがウンともスンとも言わなくなり、マシンのメインハーネスまで全てチェックしてみたものの、診断装置にありとあらゆるアラートが現れ、ついに諦めざるを得なくなったという。このD-MAXは元はといえば、10年前に青木拓磨選手が初参戦した時のマシン。その後10年をクロスカントリーラリーに捧げてきたが、ついぞマシンが疲労の限界に達し、根を上げてしまったらしい。残念ながら、ここでリタイアとなってしまった。

終盤の川を渡る ♯123 Shoji KATSUMATA / Masayuki FUKANO 組(ハイラックス)

それ以外の選手達はこの後タイ南端部へ向かい、国境を跨いで隣国カンボジアへ。国境すぐそばのホテルにチェックインし、比較的明るいうちから整備を始め、各チームともに念入りな調整を行っていた。

それにしても、陸路での越境は面白い。我々日本人にとって「出入国」とは 空を飛ぶ旅客機か海を渡る船を媒介し、数時間以上の長旅の中でしか経験できないものだが、クルマで国境を越えるとあっという間に済んでしまう。

国境を越える ♯102 Kenjiro SHINOZUKA / Eiji CHIBA 組

もちろん旅行客や輸出入に関わるヒト・モノの往来でごった返す雑踏と喧噪の中、出入国の手続きを終えるにはそれなりに時間がかかるが、それでも1時間がいいところ。わずか数十メートルの移動の間に周囲の景色や雰囲気、そして匂いまでもが変わり行く様を肌で感じる様は何物にも代えがたい。これぞ「クロス・カントリー」と言いたくなるほどにエキゾチックな魅力に溢れている。

国境越えの魅力にクロスカントリーの醍醐味。「アジアクロスカントリーラリーらしさ」もいよいよ加速し始めた。さあ、中盤戦ではどんな出来ごとが待っているのか? 次のレポートをお楽しみに!(河村大)

【MOTO】いかにも“アジアらしい”環境に苦しむか悦ぶか…

#10 Masashige NAKAJO (JPN)

夜明けを知らせるスコールと、その後の蒸し暑い空気が、ここが日本ではないことを実感させてくれる。乾燥すれば細かい粉塵となり、水分を含むとグリースのようにヌルリとしたペースト状になるタイの赤土は、想像通りライダーにとって走りづらい状況となった。タイの水を含んだ赤土の上では、ブレーキをかける、スロットルを戻す、そんな単純操作だけでタイヤはグリップ力を失ってしまうのだ。

83.67kmのSS前半ではそのような路面状況の林道で、ライダーはスピードと先へ急ぐ気持ちを抑制し、とにかく転倒しない走りへと早々にモードを切り替える。そして後半はジャングルへ分け入り、赤土の上に濡れた草が生い茂るグラストラックとなってさらに滑りやすい状況に。上り勾配では前へ進めず、下り勾配では車速をコントロールできない。つまり、本日のSSは「とにかく滑る!」だった。

SSをクリアすると、128.33kmのRSが待っている。大会2日目の本日は、タイからカンボジアへと国境を跨ぐルート。ライダーはタイからの出国審査と、カンボジアへの入国審査を各自で行う。

タイの赤土に国境越え、いずれも日本では体験できないものだ。自身の未体験ゾーンの開拓や、難関を乗り越えたときの達成感など計り知れない悦びがあるからこそ、彼らはラリーに挑むのだろう(おそらく勝負とは違うベクトルのもの)。もしそうでなければ、ただのドSだ(多分大半がコッチかと)。競技時間が耐久レースを遥かに凌ぐラリーは、まさに彼らを悦ばせるための世界だ。私は競技者ではないが、彼らと同じ時間を共に過ごし、ドロ臭い部分も見ていると、そう思わずにはいられない。

大会3日目の明日は77.23kmのルートをピストンするSSと、想定5時間で移動する248.75kmのRSとなる。体力配分もそうだが整備配分(タイヤやオイルの交換など)も重要なポイントだ。(田中善介)

#31 Khomsan UDOMTEEKASIRI (THA)
タイからカンボジアへ。国境とは言えご覧のとおりただの傷んだ道路に柵を設置したのみ。左の建物でタイからの出国審査を済ませ、50メートルほど歩いてカンボジアの同じような建物で入国審査を行う。埃っぽい空気に加えて鼻を刺激する異臭も漂ってくる(すぐに慣れるが)。
朝晩は必ずと言っていいほどスコールに見舞われる。ドカッと降ってスカッと上がるから不思議。
本日のメグちゃん「今日は最初からいきなりタイという国を感じました。チュルチュルの路面で2回くらい転倒しちゃって、あの赤土は日本では無いですよね〜。それに加えて赤土の上のグラストラック。まるでエンデューロ。しかもハードエンデューロの入門編みたいで、もう手ごたえのあるSSでした。早く洗濯したーい!」
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