アンコール遺跡群を走る♯110 青木拓磨 / Ittipon SIMARAKSKatsuhiko / 椎根克彦 組(日本&タイ・イスズ Mu-X)

世界遺産アンコールワットで迎えた
総計2,000キロのフィナーレ

世界有数の巨大都市として栄華を誇った謎の都市「アンコールワット遺跡群」。その中でもひときわ美しい佇まいを見せる石造寺院「アンコールワット」そして城砦都市「アンコールトム」。この“密林の宝石”が、今大会のゴールである。

この日、51kmの最終SSを駆け抜けた選手達は、遺跡東側のフィニッシュラインで競技を終了。そこから全車コンボイで遺跡内へと向かった。カンボジア政府の協力のもと、アンコールワット正面の道路が封鎖され、そこでゴールセレモニーが行われることになっているのだ。

アンコールの街を支え続けたと言われるシェムリアップの川を越え、城郭の北東に配された「勝利の門」をくぐるとそこはもうアンコールトムの中である。間近に眺める遺跡の迫力は圧巻だ。総計2,000kmに及ぶ旅路の果てにエントラントに贈られた最高のプレゼントだった。


遡ること4時間前、選手達は凄まじい地形の中にいた。SSの序盤、田園地帯のあぜ道に設定されたコースに無数の水たまりがあったのだ。それもただの水たまりではない。深いところでは50cm近い水深があり、何台も通過するうちに泥が混ざり、轍も作られてドロドロのヌタヌタになって行く。中には2、30メートル近く続く水たまりもあり、バランスを崩して倒れる二輪やスタックする四輪が続出した。

エンストしたマシンを押しながら引き上げる者。セルだけではエンジンが復活せず、キックスターターを何度も蹴り続ける者…。二輪勢は危なげなくクリアしていくライダーがいる中で、ちょっとしたミスがきっかけで大きくタイムをロスしていく者もいる。中には自力ではゴールに辿り付けなくなってしまった選手もいた。

続く四輪。トップグループは問題なくクリアしていったものの、続く第二集団で波乱が起きた。四輪はスタックしても直前直後のチームで助け合いながら、なんとかクリアしていく姿が見受けられたのだが、5番手スタートだった♯112 青木孝次 / Roslyn SHEN 組(日本・イスズ D-MAX)はスタック時間の長さが災いしてデイリー13位に後退。ここで順位をひとつ落としてしまう。

AUTO 5th ♯116 能戸知徳 / 赤星大二郎 組(日本・ハイラックス レボ)

ここで総合5位に浮上したのが ♯116 能戸知徳 / 赤星大二郎のハイラックス・レボ、TEAM JAOS のマシンだった。尻上がりに調子を上げながら第二集団で戦っていた彼らはこの日、デイリー2位と気を吐き、最後の最後で5位入賞を勝ち取った。

AUTO 1st ♯101 Nuttapon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組(タイ・イスズ D-MAX)

そして、栄えある四輪の総合優勝に輝いたのは、やはり♯101の Nuttapon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組(イスズ D-MAX)だった。ここ数年のアジアクロスカントリーラリーでは、彼らが毎年のように優勝。独擅場ともいえる強さを見せつけていたが、結局今年も総合トップのポジションを一度も譲らずに競技を終了した。

AUTO 1st ♯101 Nuttapon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組(タイ・イスズ D-MAX)

大相撲で言えば、横綱が何場所も連続優勝を飾っているようなものだが、ここしばらくはライバルとなる横綱そのものが不在だった。がしかし、今年は盤石に見えたその地位を脅かすチームが出現した。初日10番スタートから総合2位まで登りつめた ♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(トヨタ ハイラックス・レボ)だ。

AUTO 2nd ♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(日本・トヨタ ハイラックス レボ)

今回は整備などのバックアップ体制の充実度から、まるでトヨタのワークスチームが参戦して、いとも簡単に準優勝をさらっていったように見えるが、それは少し違う。

実は「トヨタ クロスカントリー チーム タイランド」とトヨタの名を銘打って登場したこのチームは 「TRDアジア」を母体とするチームだ。そしてこの「TRDアジア」とは トヨタテクノクラフト(株)が同社の スポーツカスタマイズブランド “TRD” を本格海外展開するに当たり、'07年にタイに設立した新会社なのだが、TRDではこれまでに「クロスカントリーラリー」の経験がなく、今回は初めてづくしの挑戦だったと言われている。

ではマシンの改造はどうか? TRD製の黒いグリルとオーバーフェンダーのおかげでスポーティーに見える外観だが、主立った改造はダンパーと試作のホイールのみ。スプリングもエンジンも基本的にはノーマルで、フレームの補強や車体の軽量化すらほとんどしていない。

実は同じハイラックス・レボを使う TEAM JAOS のマシンも自社開発中のスプリングにカヤバ製ダンパーを合わせているだけで、その他はほぼノーマル。むしろ、トップチームのD-MAX勢のほうがエンジンのチューニングや軽量化、補強などを徹底していた、といえるのだ。

事実、加速は明らかにD-MAX勢のほうが速く、対するハイラックス・レボ勢は車両重量2トンオーバーの体を少々持てあましていた。そんな中で、彼らは初出場ながら2位という結果をもぎ取った。これはチームマネジメントの良さとハイラックス・レボの基本性能の良さそしてドライバー&ナビゲーターの技量の良さという、ラリーに必要な要素が過不足なく結びついた結果と思われる。

いずれにせよ、熟成され尽くされたD-MAXが、本格改造前のハイラックス・レボにここまで肉薄されたのだ。来年以降は、D-MAXだからといって安穏とはできないはず。 “ピックアップ戦国時代” 再びやってくる兆しが見え始めた。

AUTO 3rd ♯108 Wongwirot Palawat / Thanyaphat Meenil 組(タイ・イスズ D-MAX)
AUTO 4th ♯109 Wichawat Chotiravee / Chonlanut Phopipat 組(タイ・イスズ D-MAX)
AUTO 5th ♯112 青木孝次 / Roslyn SHEN 組(日本・イスズ D-MAX)

MOTO 1st ♯5 Jakkrit Chawtle 選手(タイ)

二輪は♯5タイの Jakkrit Chawtle 選手が初日からのトップを守りきって優勝した。日本のトップライダー池町選手をして「あいつはミスをしない」といわしめたJakkrit選手は、終始安定したスピードで今年のラリーシーンをリードし続けていた。

MOTO 2nd ♯6Dan-Olov OLLE Ohlsson選手(スゥエーデン)

2位は♯6 スウェーデンの Dan-Olov OLLE Ohlsson 選手。そして3位には昨年の優勝者 ♯1日本の池町佳生選手がつけた。

MOTO 3rd ♯1池町佳生選手(日本)
MOTO 4th ♯11Sumaetee Trakulchai(タイ)
MOTO 5th ♯3 江連忠夫選手(日本)
MOTO 6th ♯2 前田啓介選手(日本)

池町選手は「チームFBジャパン」として♯2前田啓介選手、♯3江連忠夫選手とタッグを組んでの参戦だったが、このふたりもそれぞれ総合6位、総合5位に入賞した。もちろん今大会のチームアワード優勝はFBジャパンである。

21年の歴史を持つアジアクロスカントリーの中で、二輪の併催は今年で4回目。まだ歴史は浅いが、ここへ来て出場者数の増加やSNSの加熱ぶりなど、四輪を確実にしのぐ勢いになってきた。そしてリピーターの数もとても多い。さらに今年は、女性のライダーも参戦した。それもこれも、彼らの多くがゴールポイントで歓喜の涙を流し、歓びを体いっぱいで表現している姿を見れば、よく分かる。

大会初の女性ライダー ♯45 前嶋恵選手も無事完走!

そしてまた、昨年に続き今大会もT1G(ガソリン)クラス1位となった♯102 篠塚建次郎 / 千葉栄二 組(日本・スズキ ジムニー)の活躍にも励まされる。幾つになってもラリーの第一線で活躍し続ける篠塚選手の存在は、この競技が年齢を問わず、そして肩肘を張らずに楽しめることを教えてくれている。年齢差のある千葉選手としっかりタッグを組み、一緒に完走し、楽しみながら成績を残しているところにも、この競技の奥深さを感じてしまう。

ラリーは人が集い、走り、そして別れ、また翌年集っては走る。走って走って走り続ける。主催者はその場所を提供しているだけに過ぎないが、人がまだ未だ見ぬ土地に憧れ、移動することを楽しみ、感動や夢を人生の糧にしながら生きている限り、この営みが途切れることはないだろう。アジアクロスカントリーラリー2016はここに閉幕したが、来年へ向け、新たなラリーはもう産声を上げている。(河村 大)

【MOTO】いつだって結果オーライでまた来年

最後のSSを終えてアンコールワットの目の前に集結したアジアクロスカントリーの競技車両は、セレモニアルスタートのときと同様に1台ずつゲートをくぐり、ホテルへ向かう。

最終日となる本日は、短めのSS(51,4km)を1本クリアし、アンコールワットでセレモニアルフィニッシュを迎える。朝一番に田園を駆け抜けるといきなり深い水たまりの連続、泥、サンド、そしてハイスピードなフラットダートにカンボジアならではの硬い轍や凸凹、深い穴が待ち受けていた。昼過ぎにはほぼすべての車両が1か所に集められ、ポリスカーの誘導で遺跡へ向けて移動し、選手たちは長いようであっという間に過ぎていったラリーに幕を降ろす。

「1年に1回“この場”があるからありがたい」

1人の選手の口からそんな言葉がこぼれた。こう言うと語弊があるかもしれないが、本大会は、傍から見ると競技色が薄く、ユルい雰囲気が心地良い。しかしそこには厳格なレギュレーションがあり、国際自動車連盟(FIA)、国際モーターサイクリズム連盟(FIM)公認のクロスカントリーラリーである(ダカールラリーと同じ格式)。毎年各国政府の公認で、軍や警察も動くアジア最大の大会なのだ。

期間中の出来事はすべて自己責任だし、とくに2輪クラスに参加するライダーは、何事も自己完結するための「なんとかする!」スキルと精神的タフさが要求される。そしてそれを苦と思わない、アタマのネジが5、6本ぶっ飛んだ個性的な人間が集まっている。彼等は特殊な人種なのか? というと、そうでもない。日本では仕事、家族が中心の日常がある。ただ、アジアクロスカントリーラリーのトビラを開けてしまっただけなのだ。

今年は(わざわざ雨季を狙って開催しているのに)期待されるまとまった雨もなく、連日ハイスピードな争いの中でシリアスなトラブルがあった。しかしそれもラリーだ。重要なのは、とにかくこの空間が持続可能な競技であり続けることだ。来年も新たな挑戦者がやってくることを期待したい(田中善介)。

ホテルから最後のSSスタート地点までは、都市部の朝の渋滞で混乱が発生するのを避けるため、警察の先導によりコンボイで移動する。
スタートは学校の横にある道から1台ずつ出走していく。地元住民からの注目度は高く、エンジン音が鳴りひびいて車両が出走順に並べられるころにはたくさんのギャラリーが集まり、見送ってくれた。
SSのフィニッシュポイントで一旦車両は集められ、およそ19kmの道のりを警察に先導してもらいながら、セレモニアルフィニッシュの会場となるアンコールワットへとやって来た。
本日のメグちゃん「アジアクロスカントリーのことは実際に参加している友人がいたので知ってはいました。なんとなくエンデューロっぽいと聞いていてじつは興味があったんですけど、国際ラリーは自分にはまだ早いかな〜なんて思っていました。ところが女性の参加者はまだ誰もいないと聞いて、1番に参加してやる! と決めました。1番が好きなんですよー。実際に参加してみて、ルートは手強いけどそれに直面する度に負けてたまるか! って、主催者との駆け引きがまた楽しかったです。ルート設定が日本ではまずあり得ないし、純粋にライディングスキルを問われることを知りました。正直ハードだけど、綺麗なホテルとかセレモニーとか現地の人が注目してくれるとか、とにかく華があるのが嬉しい。泥だらけだけど、女性にとってそこはとっても重要! 来年も是非参加したいし、少しでも女子ライダーが増えてくれると嬉しい。けど、ここに来たらなんでも男性と対等に行うのが当たり前(力仕事はお願いしています…)。マシンのセッティングもありますが、自分の対応力ももっと高めていきたいと思います。あー楽しかった!」
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