SS7 / SS8

やはりサバイバルゲームとなった終盤戦
硬く、段差の大きな路面で壊れるマシンが続出した

早朝。プノンペンの街をポリスに先導された色とりどりのマシン達が一直線に貫いていく。カンボジアの首都は朝から慢性的な渋滞。ここを短時間で走り抜けるにはコンボイを合法的に導いてもらうほかない。信号の色に関わりなく、あらゆる交差点を颯爽と駆け抜けるラリーの一団。サービスやメディア、関係者を合わせると総勢150台は超える。その姿は壮観だ。

一行は80kmのロードセクションを経てのどかな農村に到着した。見渡す限り一面に青々とした水稲が広がる村落の果てに赤や青、白や黄色のマシンが待機し始めると、どこからともなく村人達が集まってくる。それは、村中の人が来てしまったのでは? という数だ。さっきまで教室で歌を歌っていた生徒達も、あぜ道脇で目を輝かせながら待ち構えている。

この日のスペシャルステージは42km(SS7)と132km(SS8)の2本。前半のSSは水田の中を一直線に伸びる農道が中心。平たくいえば「あぜ道」だ。したがってコースは方眼の目に沿ってひたすら真っ直ぐ走り、思い出したように直角コーナーが用意される、といった感じ。路面はほぼ完全に乾いており、やはりこの日もハイスピードな戦いとなった。

続く後半のSSは、カンボジアステージで一番長いステージ。多くの村々やプランテーションを通り抜ける高速セクション。後半20kmには重い砂が敷き詰められたルートもあり、道幅も含め変化に富んだ構成になっていた。

ここで注目したいのは、あたまひとつ飛び抜けた走りを見せる3位までのトップ集団。具体的には

1st ♯101 Natthaphon ANGRITTHANON選手(タイ・イスズ D-MAX )
2nd ♯111 新堀忠光選手(日本・トヨタ ハイラックス レボ)
3rd ♯107 Paitoon THAMMASIRIKUL選手(タイ・イスズ D-MAX )

の戦いだ。これに、4位から9位までの第二集団が17分以内にひしめき合いながら入賞争いを繰り広げている。

2nd ♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(トヨタ ハイラックス・レボ)

そしてこの日、最速タイムを記録したのは昨年の覇者 ♯101 Nuttapon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組(イスズ D-MAX)だった。2番手時計の ♯111 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN 組(トヨタ ハイラックス・レボ)とは前後半のSSで勝敗を分け合う激戦となったが、合計タイムで上回った。
 今年は 新堀選手を擁して参戦した トヨタ クロスカントリー チーム タイランド が、初日ゼッケン順(10位)スタートのハンデをはねのけ、中盤戦から タイの英雄 ANGRITTHANON 選手 に戦いを挑む構図になっているが、このふたりは本当に安定して速い。路面状況が極度に厳しいコンディションの中でマシンも壊さず、事故もおこさず、淡々と走っているように見えるのだが、ふたり共タイムは図抜けている。

3rd ♯108 Wongwirot PALAWAT / Thanyaphat MEENIL 組(タイ・イスズ D-MAX )

そしてここから下の順位は波乱含みの展開となった。まず、3位につけていた ♯107 Paitoon 選手がリアサスペンションのトラブルで一気に後退。また、高速ステージで気を吐き、7番手まで順位を上げていた ♯119 Bandit選手も事故でリタイア。これで後続の選手が繰り上がり、

3rd ♯108 Wongwirot PALAWAT / Thanyaphat MEENIL 組(タイ・イスズ D-MAX )
4th ♯109 Wichawat CHOTIRAVEE / Chonlanut PHOPIPAT 組(タイ・イスズ D-MAX )
5th ♯112 青木孝次 / Roslyn SHEN 組(日本・イスズ D-MAX)
6th ♯116 能戸知徳 / 赤星大二郎(日本 ハイラックス・レボ)

という順位付けになった。
3位から5位まではいずれも当ラリー歴戦の勇士。混戦模様の大会でも後半戦でしっかり順位を上げてくる戦いぶりはさすがと言わざるを得ない。

ディナー時にフェデラル・アワードとして 四輪のトップ3チームが表彰された。
6th ♯116 能戸知徳 / 赤星大二郎(日本 ハイラックス・レボ)

そして一気に6位に浮上した 能戸/赤星組は日本のアフター・カーパーツメーカー “JAOS” のチーム。昨年のFJクルーザーに引き続きチームとしては2年目の参戦となっている。今年はマシンをハイラックス・レボに変えたものの、スプリングとダンパー以外ほぼノーマルというスタイルは踏襲。日本のクロスカントリーラリー界で若手のホープと言われる 能戸知徳選手 を 開発担当 兼 ドライバー として同社に迎え、今年は「新型車のデータ取りのために完走を目指す」という。なお、ナビゲーターは昨年同様、同社の赤星大二郎社長が務めている。

7位以降の順位も目まぐるしく変わっている。その原因のほとんどが、ドライビングのミス や ミスコースではなく、サスペンショントラブルである、という点が今年のアジアクロスカントリーラリーの難しさを物語っている。日本勢で言えば、♯102 の 篠塚建次郎 / 千葉栄二 組(日本・スズキ ジムニー)も ♯110 青木拓磨 / Ittipon SIMARAKS / 椎根克彦 組(日本&タイ・イスズ Mu-X)も結局サスペンショントラブルで上位に浮上できぬまま、中団に埋もれてしまっている。

元来、雨期に行われるこのラリーはヌタヌタでドロドロの路面をクロスカントリータイプの四輪駆動車で走り抜けていくことがひとつのメイントピックとなっている。ところが準備段階のレッキ(事前走行)時にはバランスよく雨が降っていたものの、ここ数日、肝心の雨がまとまった量で降らない。その結果どうなったのか。ウェット路面の時に掘られた穴や、つくられた轍がそのまま乾燥して硬くなってしまったのだ。しかも、穴の大きさや轍の深さ自体がものすごいのに、乾燥した赤土の硬さがハンパではないのだ。まるでコンクリートのよう。
 にも関わらず、直線主体のコースは高速になりやすく、実際、カンボジアステージに入ってからはものすごいアベレージスピードで競技が進んでいる。
 そう。スピードを出さねば勝てないのに、路面は硬い穴だらけ轍だらけ、という状況になっているのだ。正直言ってその過酷さは自動車メーカーの開発テストを越えているのでは? という状態だ。そんな中、今日まで生き残ってきた車両は、今年投入された新車のマシンなど、まだ比較的金属疲労の溜まっていないクルマだったり、運転の丁寧なドライバーのマシンだったりする場合が多い。もちろん、前年のマシンを整備して持ち込んだチームでも、丁寧なクルマ造りを行っているところは生き残っている。
 そういった意味で今年のコースは、ドライバーやナビゲーターのスキルやマシンの制作技術、整備技術に加え、チームの危機管理体制が例年になく厳しく試されている、と言っても過言ではない。

ラリーは残すところあと1日。世界遺産“アンコールワット”へのゴールを臨むSS9を残すだけとなった。さあ、誰が歓喜のゴールを迎えるのか。明日のレポートを楽しみにお待ちいただきたい。

なお、二輪は暫定結果に一部チームから抗議があったため、競技結果はFIAの承認を経ておらず、まだ確定していない。確定次第お知らせする予定なので、しばしお待ちいただきたい(河村 大)

【MOTO】アグレッシブな自分を抑制する冷静な自分

#3 Tadao EZURE (JPN)

今大会も後半戦に突入し、選手たちの疲労がピークに達するタイミングで設定されたルートは、またしてもハイスピードなステージだった。林道やジャングルといったテクニカルな山岳ステージではなく、カンボジアの広大な田園の直線道路、農道、湖畔沿いの道路など、乾いたフラットダートが続く。

場所によってはハンドルを取られるふかふかで重たいサンド、轍の跡がコンクリートのようにカチコチに固まり、ハイスピードで突っ込むと車体が弾き飛ばされるような路面、そして突然目の前に現れる深い穴、バンピーな凹凸などもある。こんな場所を思いっきり走らせられるなんて楽しくないわけがない。とくに日本ではあり得ないシチュエーションだ。

雨でも降れば嫌でも速度を落とすところだが、今年はそういう意味で天候に恵まれなかったようだ。彼らのスピードを抑制するきっかけが無いのだ。その結果、ハイスピードでの転倒によるライダーとマシンへのダメージは軽傷では済まされない。

走り終えた誰もが「楽しかった」「走っていて飽きない」「面白いルート」だと言う。その一方で、これまでにない高い速度域で走る自分に怖さも感じている。一発ですべてが終わる恐怖だ。走りを楽しむあまり、無事にラリーを走り終えることを忘れてしまうのだ。

家に帰れば家族がいる、仕事もある。いつもの日常を10日間も放棄してラリーに専念するなんて、単に非日常を満喫しに来ているに過ぎない。だからこそ、無事に帰って、家族や職場に感謝しなければならない。つい、そんなことを考えてしまう1日だった。

そんな非日常もついに明日、アンコールワットという神聖な地を終着点として最後の日を迎えるのだ。(田中善介)。

#14 Shinichi YAMADA (JPN)
#30 Mana PORNSIRICHERD (THA)
#9 Norihisa MATSUMOTO (JPN)
本日のメグちゃん「コマ図にはスリッピーってあったのに、じつはハイスピードで行けるベストコンディションでした。でもサンドではウデが上がってしまって、重たい砂にハンドルを取られて倒れちゃうし、それからは転ばない走りにスイッチを切り替えました。先を急いで何度も転んでその度に体力を使うより、確実に前進することです。今日はスコールも無くてただただ暑かった。ミスコースしたときに熱中症気味だと気付いて、冷静な自分を取り戻しました。エンデューロ並みに攻めるより、もうひと開けしたいところでガマン。ちなみに紫外線は女性の大敵なので、日焼け止めは欠かせません!」
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