LEG4のSSは250.57km。ナコンサワン、ペチャブン、ピチットという3つの県にまたがる、今大会最長のSSだ。1日の総走行距離も421.42kmと最も長く、ロードセクション(RS)のターゲットタイムとSSのマックスタイムを合わせると10時間25分にも及ぶ時間になる。
前半は高速ダートや田んぼのあぜ道、クリーク越えなどが続くルート。山道やジャングルも出現する。後半も高速ダートが続き、サトウキビのプランテーションの農道や多くの村を通過する。
この地域のあぜ道は田んぼより低く、雨などが降って田んぼの水が溢れると脇の道路に水が溜まってしまう。ラオスやカンボジア、タイの一部地域で見られる風景だが、脇の道路が非常にぬかるみやすく、水が溢れた状態をウォーターベッドと呼んで区別するほどだ。
いずれにせよ、この地域のSSはクロスカントリーラリーの百科事典と言われるほど、ありとあらゆる路面、地形が出現する。競技者にとっても楽しく、チャレンジングなコースとして知られている。
実際、走り終えた選手に話しを聞くと「細か過ぎるコマ図に精神力と体力を奪われることなく、砂あり、泥ありウォーターベッドもありで、SSの距離そのものは長かったが、とても楽しく走れた」と好評だった様子。4日目ともなるとラリーに慣れ、表情にも余裕が窺えるものの、マシンにも選手にも疲れが溜まってきており、駆動系などのトラブルに見舞われるチームやちょっとしたミスで順位を落としてしまうチームも見受けられた。
二輪はトップ2の ♯1 の Jakkrit CHAWTALE 選手(タイ・KTM 350 EXC-F と ♯2 池町佳生 選手(KTM 350 EXC-F)の戦いが激化。4分のアドバンテージを持つジャクリット選手が池町選手をマークする作戦を採り、池町選手がミスコースしても徹底追従。250kmを走り終えて、僅か4秒差でゴールしている。
したがって、総合順位は昨日から変わらず、池町選手がジャクリット選手に4分のビハインドを背負ったままLEG5からの終盤戦を迎えることになった。
続く第二グループは総合3位の ♯9 Chatthai PHRUETISAN(タイ・ HONDA CRF250 Rally)がトップから44分45秒差、4位の ♯3 の 江連忠男 選手(YAMAHA YZ450FX)が47分46秒差とこちらも3分差の僅差。目が離せない状態が続いている。
第三グループはそこからさらに1時間のタイム差がついてしまっており、優勝戦線への復帰はほぼ絶望的な状態。したがって第一、第二グループでそれぞれ行われている タイ人 vs 日本人の戦いが今後の焦点になって行くだろう。
四輪の戦いも熾烈だ。昨日のSS終盤でサスペンションにダメージを負い、2位の ♯102 新堀選手に追いつかれかけた ♯101 Nutthaphon ANGRITTHANON(タイ)/ Peerapong SOMBUTWONG(タイ)組 が朝までにクルマを仕上げ、スタートから快走。
これに対し、先行してスタートした ♯102 の 新堀忠光 / Chupong CHAIWAN(タイ)組は、♯101のチャンピオンマシンを敢えて先行させ、追従する作戦を敢行。ガマンの走りながら、チャンピオンのお膝元の地域では敢えて無理をせず、ミスコースを未然に防ぐことでLEG4の戦いをしのいでいた。
実際、道が分かりづらくナビゲーションが難しいところが幾つかあり、スタート順のまま走っていたらミスコースしてしまう可能性が高かったという。とはいえ先行せねばチャンピオンに勝つことができぬため、Toyota Cross Country Team Thailand は明日のLEG5に勝負をかけてくると思われる。
続く3番時計は 新堀選手のチームメイト ♯119 Jaras JEANGKAMOLKULCHAI(タイ)/ Kittisak KLINCHAN(タイ)組 が記録、4番手は ヌタポン選手のチームメイト ♯103 Wongwirot PALAWAT(THA)/ Thanyaphat MEENIL (タイ・ISUZU D-Max)となり、ここでもチーム間の戦いが熾烈に行われていた。
なお、総合4位につけていた ♯108 FORTUNER GEOLANDAR takuma-gp 青木拓磨 / Ittipon SIMARAKS(タイ)/ 椎根克彦 組(TOYOTA FORTUNER)は前半のセクションで痛恨のミスコース。後半で数台を抜き返す追い上げを見せたものの、トップから39分遅れの9位でゴール、総合4位は変わらぬものの、1位との差は1時間15分にまで開いてしまった。
実はこの日、PC STOP 以降の SS 後半で、ちょっとしたアクシデントが起きている。150km付近で軍と警察によって競技車両が止められてしまったのだ。これにより、それ以降を走っていたマシンの競技続行が困難になり、コンボイを組んで一般道へ誘導されることとなった。
ただ、SSゴールには半数以上のマシンが到着したため、FIAの競技規定に乗っ取りSS全域での競技成立を発表。SSを完走した前中盤チームの努力を優先して救済する一方、軍や警察に止められてしまったマシンには、一定のタイムを付与することでバランスを計る裁定となった。
実際には、コンボイで脱出せざるを得なかったマシンには、SS後半をゴールできたマシンのうち「故障もなく普通に走って最も遅かったマシンのタイム」を基準に、ゴール未到達分を考慮して5分をプラスした「SS後半の疑似タイム」を一律に与える、というしくみとなっている。
この裁定により、やや微妙な立場になったのが ♯118 Garage MONCHI with KONYUDO-KUN(SUZUKI Jimny)の 竹野悟史 / 柳川直之 組だ。彼らは軍や警察に止められる直前にそのポイントをクリアし、直後に行ったトランスファーの交換作業によって時間をロス、SSゴールはマックスタイムの6時間30分をほぼ使い切ってゴールしている。そのため「完走したにも関わらず、コンボイで脱出せざるを得なかったマシンより順位が遅い」という裁定になったのだ。
ただ、コンボイで脱出せざるを得なかったチームにしても、全員が「一律に与えられたタイム」に満足できるわけではない。もっと速く走れた、と考えるチームもあるだろう。
もとより、誰もが納得できる裁定などあるはずもなく、運営側は難しい判断を迫られたと思うが、前半中盤で長いSSを完走したチームにとっては、胸をなで下ろす結果となったに違いない。
理不尽に見えることもあるが、誰かがどこかで線引きをせねば競技は成立しない。その意味で、この裁定そのものがまた、ラリーそのものを表している、と言うこともできるだろう。
そしてラリーは中盤戦を終え、いよいよ後半戦に突入する。順調に走ってきたチームも、トラブルに見舞われてきたチームも、笑う選手も怒る選手も、泣いている選手もみな一緒くたに、最終日アユタヤのゴールへ向けて走り出す。
さあ、最後に笑うのは誰なのか。最終日の短いSSを除けば、今大会最後の大一番となるLEG5のロングSSが、いよいよ始まろうとしている。