あっという間に過ぎ去った6日間。ミレニアムの年以来、19年振りに復活した "ミャンマー" という冒険の地を得て、24年目のサン・クロレラ アジアクロスカントリーラリーはまたひとつ大きな可能生を手に入れた。
ミャンマーの政府観光庁の協力を得て実現したラリーに、ミャンマー人によるチームが一挙に4台も参加し、沿道でもポディウムでも大きな声援を受けていたのだ。
ラリーとは「再び集う」もの。開催する側も、参加する側も、また必ずこの競技に戻ってくる。その意味で、今回のミャンマー開催は、今後のアジア圏のクロスカントリーラリーを占う上でも、大きな収穫となったはずだ。
さて。タイはパタヤのビーチリゾートから、国境を陸路で越えてミャンマーの首都ネピドーへ至る2,300kmのラリーは、途中、500台のコンボイによる越境、自然災害によるSSのキャンセルなど、いくつかの難問を乗り越えながら最終LEGの朝を迎えた。
最後のSSは首都の南を南東に駆け抜ける約50kmのショートステージ。一部ハイスピード区間があるものの後半はロックだらけ。中盤にはオフロードスキルの高い人しか脱出できない区間があり、そこは、急遽朝まで延期されたブリーフィングでショートカットすることが伝えられた。
走り終えた選手達に話を聞くと、まず「SSのスタート前はギャラリーが鈴なり。選手としては大いに盛り上がりました」という。「前半はストレートで後半はロック。頭より大きい石がゴロゴロしていたけど、初心者レベルでも充分走れるコースだった」とのこと。
また、観客が多いが故の悩みもあって「フィニッシュ直前の村で道がドロドロのところがあって、村人がみんな集まって来ていて、ものすごい声援なので、そこが楽しいというか、辛いというか。激しいアクションが起きるラインを期待されているのがわかるし、でもイージーなルートを通りたいし。でも声援はすごいし、泥の中で転けたくないし…みたいな(笑)」という意見もあった。
そんな中、今年の競技は「毎日環境が変わり、状況も路面も変わるので、そこがすごくアジアクロスカントリーラリーらしくて楽しかった」という声が多かった。
そんな中、♯26 の 西森 裕一 選手(DIRTSPORTS RT with Team JAPAN)Yamaha WR250F がデイリートップのタイムを記録。続く2位から4位までは SAVAGES Top 1 oil Race チームの ♯21 David ROPER 選手(スコットランド)、♯16 の Willem VERMEULEN(オランダ)、♯9 の Kyle ROBERTSON(ウェールズ)の3人が付けた。彼らはカンボジアから参戦してきているのだが、今年はこの3人が速く、台風の目となっていた。
続く5位は ♯1 池町佳生 選手(FB International)。6位は ♯2 の Koun Phan DARA 選手(Dara Motorcycle TOP 1 Oil)という順だ。
この結果を受け、総合優勝を果たしたのは ♯3 Jakkrit CHAWTALE 選手(タイ) KTM 450 EXC-F。一昨年、池町選手と壮絶なバトルを繰り広げ、優勝した選手が再びチャンピオンに返り咲いた。
総合2位は♯6の 江連忠男 選手(FB International)Yamaha YZ450FX。最終SSで前走するジャクリット選手とのタイム差をかなり縮めたものの、悲願の初優勝には届かなかった。続く3位は ♯1 の 池町 佳生 選手となった。池町選手は今年、珍しく前半戦でのミスコースが多く、大きくついてしまったタイム差を最後まで挽回することは適わなかった。それでも負傷した左手親指の影響を感じさせない走りで、3位に踏みとどまる辺りはさすが、といったところだろう。
Japan Racing Sidecar Association から出場している ♯66の 渡辺正人 / 大関政広 組 がタイ・ステージでリタイアしたのち、♯ 67 の 岩本徹男 / 冨本至高 組 のウラルが孤軍奮闘していたが、なんと今年は2日目から最終日まで、全ての競技区間をキッチリ走り切ってしまった。
昨年まではSSのゴールは目標にせず、ある程度走った後はコース外へ脱出し、ペナルティをもらいつつの完走という楽しみ方をしていたのだが、「ゆっくりならSSを走りきれる」という岩本選手の言葉通り、今年は飛ばさず、でも粘り強くゴールまで走り切る姿が印象的だった。そして終わってみれば、二輪選手の結果にも肉薄するタイムで完走しており、改めて2輪駆動マシンの走破性の高さと、岩本 / 冨本組のガッツに感心させられた。
この日のSSではTRD勢、つまり TOYOTA CROSS COUNTRY TEAM THAILANDチーム のマシンがワンツーフィニッシュを飾った。♯105 Mana PORNSIRICHERD / Kittisak KLINCHAN 組 が32分01秒、♯111 の Jaras JAENKAMOLKULCHAI / Chupong CHAIWAN 組が32分24秒。
これに対し、チャンピオン Natthaphon選手は 34分09秒の3位。序盤戦こそチャンピオンが圧倒的な速さを見せたものの、LEG3以降は守りに入るNatthaphon 選手を尻目に、TRD勢がそれを上回るペースで快走することが増えていた。
続く4位は尻上がりに調子を上げていた ♯109 TEAM JAOS の ♯能戸知徳 / 田中一弘 組のトヨタ・ハイラックス。昨年はTRDマシン同様トレッドやフロントアーム長を拡幅したフル改造仕様のマシンで挑んでいたが、今年は「原点回帰」を標榜。純正ボディー幅に収まるサスチューニングでユーザー目線の挑戦を行っていた。その結果、メーカーワークス勢に次ぐポジションをコンスタントにキープできることを証明、アフターパーツメーカーとしての面目を躍如する結果となった。
この結果を受け、輝けるチャンピオンの座を確定したのは ♯101 の Natthaphon ANGRITTHANON / Peerapong SOMBUTWONG 組(The Land Transport Association of Thailand-Isuzu)いすゞ・D-MAX。連続優勝記録を「7年」に伸ばし、その強さと安定性をさらに強固なものとしていた。
2位には目覚ましい躍進を見せた ♯120 Suwat LIMJIRAPINYA / Prakai NAMJAITHAHAN 組(Isuzu Suphan Sport)いすゞ・D-MAX 組が入り、そして3位、4位を♯ 105 と♯111 の TRD勢が占めた。
続く5位、6位はチャンピオンチーム The Land Transport Association of Thailand-Isuzu の2台(♯102 及び ♯103)が入り、昨年に続くいすゞ VS トヨタの熱い戦いは幕を閉じた。
なお、コンペティター達のマシンがSS内で激闘を繰り広げる中、沿道に集まったミャンマーの人々は本当に楽しそうな笑顔を見せていた。マシンが通り過ぎる度に大きな歓声を上げ、派手なアクションが見られるとヤンヤの喝采を送ってくれる。バイクが泥の中に倒れれば駆け寄って起こし、スタックしたクルマも大人数で後押ししてくれる。村中の人が純粋にラリー観戦を楽しんでいる姿は、農村部まで急速に現代化したタイでは久しく見られなくなっていた微笑ましい光景だった。
そんな中、中段以降のグループでは、通過台数に比例して極悪化した路面につまずき、スタックしてしまったマシンを互いにタイムを気にせず助け合う姿がチラホラ。古きよきアジアクロスカントリーラリーの伝統も失うことなく、多くのマシンが笑顔でゴールを迎えることができた。
そして迎えたフィニッシュセレモニー。首都ネピドーの巨大なパゴダ(仏塔)を背にする見晴らしのいい場所に用意されたポディウムの上に二輪の新チャンプ Jakkrit 選手が現れると、会場から大きな拍手が沸き起こった。
その後も、ポディウムの上で次々に紹介される選手達。四輪ではチームを支えたスタッフ達も一緒になって壇上に登り、大勢のメディアに囲まれながら一生の記念になる記念写真の中に収まっていた。
ラリーの一向はその後、宿泊中の グランド アマラ ホテルに戻ってシャワーを浴び、表彰パーティの行われる ミャンマー インタナショナル コンベンションンセンター(MICC2)に向かった。東京ドームのグラウンド面積の2倍以上もある巨大な施設の入り口には、幅30メートルはあろうか、という看板に「Sun Chlorella ASIA CROSS COUNTRY RALLY 2019」の文字。500人からの参加者を収容する宴会会場では50を超える円卓が設けられ、70名近いミャンマーの政府関係者も招待されていた。
表彰式を前に挨拶をしていただいたのはミャンマー政府 ホテル観光省の事務次官 U Hlaing Oo 氏。その後、株式会社サン・クロレラ の代表取締役社長 中山 太 氏 よりご挨拶があり、選手やスタッフにねぎらいの言葉がかけられるとともに、またお会いしましょう!という力強いメッセージをいただいた。
そして、この表彰式の席上にて突然ラリーのイメージ映像が流れ、そのエンディングにて来年2020年の大会がマレーシアであることが紹介されると、会場内から大きな拍手が沸き起こっていた。マレーシアも24回にわたるアジアクロスカントリーラリーの歴史の中で馴染み深い国ではあるものの、ゴール地に設定されるのは2003年以来17年振りのこと。果たして来年はどんなルートが設定され、誰が、そしてどのチームが活躍するのか。今からとても楽しみだ。
これにて第24回 サン・クロレラ アジアクロスカントリーラリー2019は閉幕する。来年も再び、このラリーで相まみえんことを!