ラリー3日目。競技は中盤戦に入り、落ち着きを見せ始めると共に、2023年を特徴付けるポイントが見えて来ました。
まず、天気と路面状況。ここ数日、競技が行われた地域への降雨はほとんどなく、路面は乾燥し、雨期にラリーを開催する主催者の想いとは裏腹に、ほぼ完全にドライコンディションとなっています。そのため競技車両は高速で走ることとなり、その半面、路面の凹凸がより強く襲ってくるため、選手やサスペンションにとって非常に厳しい状況となっています。
また4輪はワークスチームの三菱トライトン(Team MITSUBISHI RALLIART)とトヨタ ハイラックス・レボ(TOYOTA GAZOO RACING THAILAND)を中心に上位陣が形成され、セミワークスチームの いすゞ D-MAX 勢や トヨタ フォーチュナー が隙を見て上位を伺うような展開が予想されていたのですが、ここに来て TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA の3台が毎日のSSの上位に名を連ねるようになり、オーバーオールでも大きな存在感を見せ始めています。
連覇を狙う Team MITSUBISHI RALLIART も、悲願の初優勝に賭ける TOYOTA GAZOO RACING THAILAND も、互いに相手を牽制しながら、漁夫の利を得ようとする フォーチュナー勢 への対策を早急にせねばなりません。
ドライ路面の凹凸地形に強い2輪の選手にとっても、別の意味で非常に厳しい消耗戦となっています。序盤戦のナビゲーションコース(※ルートマップが細かくて難しいコース)で多発したミスコースによって精神的な余裕が失われ、彷徨った時間だけ体力が大幅に消耗し、いつどこで迷うか分からないという「恐れ」が骨の髄まで染みこんでいる状況です。
また、4輪のスタートと1時間の時差があるものの、ミスコースして大きく遅れた際に、狭いコース上でアベレージスピードの高い4輪と相対せねばならず、それも、遅れて辛い状況にある2輪選手のストレスとなっています。
というわけで中段以降の2輪選手は今、精神的にも肉体的にも非常にタフな状況で戦っています。ここで踏ん張ることができれば、後半戦への扉が開いていくと思います。毎年強く感じることですが、極限の世界で、ナビゲーションから整備・修理までなにもかもひとりでこなす2輪選手のタフネスさには本当に頭が下がります。
いずれにせよ、この日はタイ・エリアで行われる最後の競技となりましたが、4日目以降のラオス ステージでは「何が起きるかわからない」と言われているだけに、ここで少しでも多くのアドバンテージを得ておくことが後半戦を戦う上でとても大切になります。
この日もコースの基本構成は1、2日目と同じでした。ジャングルを切り拓いた農場とその農道、川沿いにうねるフラットダートの連続です。ただ、そこにライスフィールド(稲作の田んぼ)が加わったことで、全体がよりテクニカルなレイアウトとなりました。「田んぼのあぜ道」と言ったほうが分かり易いでしょうか。道幅は非常に狭く、トリッキーで激しい凹凸を伴い、より多くのストップ&ゴーが繰り返されます。
コースが乾燥していることもそれぞれのタイムに大きな影響を与えています。前走車の巻き上げる埃がすさまじく、オーバーテイクには大きな危険が伴います。実際、満足に自分のペースで走ることができない選手も数多くいたことでしょう。
2輪はこのタフな状況でも、ポールポジションからスタートした #17 JC DIRT SHOP Rally Team の Jakkrit Chawtale 選手(タイ)がアナザープラネットな速さを発揮。昨日30分ほどだった2位以下との差をさらに25分以上広げ、完全な独走態勢に入りました。
続く2位と3位には Team Cambodia の #2 Koun Phandara 選手と #16 Chhour Chan Sovan 選手が、4位と5位には Team OTOKONAKI の #15 砂川保史 選手と #3 松本典久 選手がつけています。
LEG3までの総合成績では Jakkrit Chawtale 選手(タイ)がトップ。2位は安定した速さで上位走行を重ねている Team Japan の #1 西村裕典 選手(日本)が、3位は #10 Team OTOKONAKI の 山田伸一 選手(日本)となっています。
なお、この日は大会を協賛している 株式会社ウェルポートコーポレーション による「WelPort」アワードが設定されており、2輪のSS3の上位5選手がディナーの会場で表彰を受けていました。
4輪はトヨタ フォーチュナーを駆る #103 TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA の 塙郁夫(日本)/染宮弘和(日本)組が鬼神の走りを見せました。塙/染宮組は初日の燃料系トラブルによって、既に優勝戦線から脱落しており、SS3も35番手からのスタートとなりましたが、並み居るライバルをゴボウ抜きにし、2時間30分台という信じられないタイムを記録しました。昨日のトップに続き、その存在感を大きく見せつけています。
塙選手のタイムは、遅いスタート順、抜き所の少ない狭いコースレイアウト、激しい前走車の砂埃、という3重苦をハネのけての結果です。同じく2位となったチームメイトの #105 の 青木拓磨(日本)/Ittipon Simaraks(タイ)Songwut Danphiphattrankoon(タイ)組のフォーチュナーの走りも、SS内で観察していて明らかに速いので、ピックアップで戦う三菱、トヨタのワークス勢にとって大きな脅威となっているはずです。
3位も同じく TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA のトヨタ フォーチュナー。#121 Tubagus Moerinsyahdi(インドネシア)/Jatuporn Burakitpachai(タイ)組が続いています。
ここ数年、一般的に、ピックアップのほうがSUVより車重が軽く、アジア圏のクロスカントリーラリーでは有利、との観測がなされていましたが、TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA のフォーチュナーは道が悪くなればなるほどアドバンテージが得られるアメリカンデザートレース仕込みのサスペンションセッティングを持っています。天候の影響でドライの極悪路が続く今年のラリーでは、水を得た魚のような走りをしています。
この結果、SS1〜3までの総合成績では TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA #105 の 青木拓磨(日本)/Ittipon Simaraks(タイ)Songwut Danphiphattrankoon(タイ)組がトップ、そしてチームメイトの #121 の Tubagus Moerinsyahdi(インドネシア)/Jatuporn Burakitpachai(タイ)組が2位となりました。
これを僅差で追いかけているのがトヨタ ハイラックス・レボを駆る #102 TOYOTA GAZOO RACING THAILAND の Jaras Jaengkamolkulchai(タイ)/Sinopong Trairat(タイ)組です。チームメイトの #111 Mana Pornsiricherd(タイ)/Kittisak Klinchan(タイ)組も5位と好位置につけています。
4位には昨年のチャンピオン #101 Team MITSUBISHI RALLIART の Chayapon Yotha(タイ)/Peerapong Sombutwong(タイ)組がトップから約14分差という僅差でつけており、6位には Isuzu Suphan Explorer Liqui Moly Rally Team の #115 Ditsapong Maneein(タイ)/Athikij Srimongkhol(タイ)組が迫っています。
トップから6位までのタイム差はおよそ34分。明日からはラオスに越境して競技が続きますが、この極悪マッドの世界ではどんなドラマが生まれるか全く予測はできません。ひとつのミス、ひとつのスタックであっという間に順位が入れ替わりますし、7位以降の選手にも上位入賞、あるいは優勝の可能性すらあるのです。
さあ、いよいよ戦いは後半戦に突入します。いよいよ、その成り行きに目が離せなくなってきました。それではまた明日、お会いしましょう!
大会3日目の朝、早いものでこの日をクリアすれば全日程の折り返し、明日は国境を越えてラオスへ移動となる。
いつものようにMOTO部門のバイクが1台ずつ一晩限りのホテルを出発し、市街地を抜け、郊外の幅広い国道をひた走り、SS3のスタート地点へ向かう。
全てのバイクの出走シーンを見届けたMOTO撮影班も、ホテルを出て走り出す。向かう先は同じなので、途中、エンデューロマシンを走らせるライダーとすれ違うことがある。
競技車両はいずれも細身の車体に前後ブロックタイヤを履き、アクティブにオフロードを走るよう適した車体構成となっている。ライダー各々がその日の走行環境に合わせてセッティングし、携行する装備も必要最低限。そんな「ツーリングバイク」とは言えない車両で、地平線まで真っ直ぐ伸びるアスファルトの道を2時間も走り続けるなんて、苦行としか言いようがないとつくづく思う。
昨日、サンドでスタックし、クラッチ板が焼き付いてしまったサイドカーも朝陽を浴びて走っていた。聞けばクラッチ板の交換作業は午前3時までかかったらしい。ウラルは車体の構成上、クラッチへアクセスするにはリアホイールから順番に構成部品を取り外す。明かりの少ない中での作業はさぞかしやりづらかったに違いない。そんな状況のため、この日はドライバーとパッセンジャー、2人の体調を鑑みながら走ることに。
そして相変わらず雨が降らない日が続き、赤土の道をハイスピードで駆け抜ける場面も多くなる。幸い転倒や事故による怪我人が続出ということもないが、油断はできない。
というのも、ライダーに聞けばコマ図の件を除いて「走りやすい」日が続いていると言う。そしてこの日設定されたSSの路面は、赤土、サンド、砂利(岩盤が削れた砂)、グラス(草)など、次から次へと変化する中、右へ左へ何度も進路を曲げられるというもの。
いずれも、ひとたび濡れてしまえば到底「走りやすい」なんて言えない。主催者としても、雨が降ってこそのアジアンラリーと言うほど、この競技に雨は欠かせないらしい。みんなが雨の中、ドロドロになってもがきながら先へ進む姿を見ることができず、この舞台を用意した方もちょっと残念なのかもしれない。
明日からは舞台をラオスに移し、参加者のほとんどが、かつて経験したことのない未体験ゾーンに突入する。事前の情報では、どこもかしこも泥沼のような水たまりや、重く柔らかい土、泥濘の道が続いているらしい。タイでの最悪の状態の道が、ラオスでは普通ということなのか……は、定かではないが、タイよりもさらに「水っぽい」国だと想像してしまう。
結局は「足」で進むメディアとしても、ここ3日目までは順調に撮影スポットを探すことができている。こちらとしてもラオスは未体験ゾーン。初めての地にワクワクしつつ、足を取られないよう注意深く進んでいきたい。