いよいよ後半のラオスステージが始まりました。ラリーの一行は朝5時半にウボンラチャターニーのホテルで朝ごはんのパックを受け取ると、一路、ラオスとの国境 チョン メッグ に向かって出撃しました。
国境では、オフィシャル、二輪、メディア、四輪、サービスの順にタイからの出国とラオスへの入国手続きが行われました。200数十台+500数十人にのぼる一大集団の移動だけに、時間はそれなりに有したものの大きな混乱なく越境を完了、ラオス最初のSSへと向かいました。
途中、ラオスへ入国する前の広場では、選手たちがラオス女性から花の首飾りをかけていただくなどの歓待を受けるなど、微笑ましいひと幕もありました。
国境を越えると、その瞬間にクルマは右側通行に変わります。賑やかだったタイ側の国境の街とは異なり、最初の料金所を越えると辺りはすぐに緑一色に変わりました。
ほどなくして、最初のラオス ステージとなるSS4のスタートポイントに到着。9時35分には二輪の選手達が、10時55分には四輪のマシン達が、赤土のオフロードへとスタートを切って行きました。
スタックしたまま、身じろぎもせず、ただうずくまり続けるライダー。
水場で転倒して、びしょ濡れになりながらマシンを起こし、セルスターターを回し続ける選手たち。
転倒して体を水没さながら、酷暑の地獄から逃れるため、泥水の中に座り続ける選手たち…。
そばにいたメディアも、跳ね上げられる水と泥で、カメラはおろか全身が濡れ鼠になっていましたが、ライダー達が見せる尋常ならざる光景に、百戦錬磨のメディアも目を疑う事態が続きます。
深い穴に前輪を落とし、大きく傾きながら、ウインチで脱出を図るマシン。
ギャップで飛ばされ、前輪がハの字になってフロント駆動を失うマシン。
リーフが根元から折れ、タイヤがあらぬ方向を向いてしまい、カニ走りしながらゴールに飛び込んでくるマシン。
川渡りでファンがラジエターをえぐり、クーラントをダダ漏れにさせてしまうマシン…。
やはり、ラオスのオフロードは尋常ではありませんでした。タイセクションでは紛れもなく「!(コーション)」としてロードブックに示される凸も凹も、数え切れぬほど多く、そしてひとつひとつがとても激しかったのです。
コーションがなかったとしても油断はできません。路肩の草地がキレイに見えたとしても走ってはいけません。ラオスでは草地があること=誰も走ったことがない場所であり、競技スピードで足を踏み入れたマシンは必ず、手痛いしっぺ返しを食らいます。
そんな、地獄絵図のようなコースを悠々と走り抜けて来たのが総合トップの#17 JC DIRT SHOP Rally Team の Jakkrit Chawtale 選手(タイ)。1番手スタートのアドバンテージを維持し、汚れのない姿のままゴールに滑り込んできました。
これに続いたのが 昨日の3位と4位、Team Cambodia の #16 Chhour Chan Sovan 選手、#2 Koun Phandara 選手です。Jakkrit 選手とほぼ遜色ないタイムでゴールして来ました。
その後ろ、4位から10位までは、#1 西村裕典選手(Team Japan)、#10 山田伸一選手(Team OTOKONAKI)、#3 松本典久選手、#15 砂川保史選手、#7 小野拓哉選手、#22 福村久澄選手、#20 高橋祥介選手、と日本人選手が続きます。
これにより、総合トップはラリー序盤から盤石の地位を築き上げて来た #17 Jakkrit Chawtale 選手(タイ)。2位もTeam Japan の #1 西村裕典 選手(日本)で昨日からのオーダーは変わりません。
ただ、昨日まで3位だった#10 Team OTOKONAKI の 山田伸一 選手(日本)が順位をふたつ下げ、そこにTeam Cambodiaの#2 Koun Phandara 選手と#16 Chhour Chan Sovan 選手が浮上して来ました。
四輪は昨日、総合トップに浮上した #105 の 青木拓磨(日本)/Ittipon Simaraks(タイ)Songwut Danphiphattrankoon(タイ)組のトヨタ フォーチュナーが、1番手スタートのまま誰にも抜かれずにゴール。
ただしNEXZTER REST CLUB (NXRC) の #108 Theerapong Pimpawat(タイ)/Jumpol DOUNGTHIP(タイ)組のトヨタ ハイラックス レボが激しい追い上げを見せ、2時間25秒という最速タイムでデイリー1位を獲得、青木拓磨選手はデイリー2位となりました。
続く3位は Team MITSUBISHI RALLIART の #101 Chayapon Yotha(タイ)/Peerapong Sombutwong(タイ)組。昨年のチャンピオンが終盤戦への望みをかけ、好タイムで食らい付いてきています。
4位はステディな走りを見せる TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA の ♯121 Tubagus Moerinsyahdi(インドネシア)/Jatuporn Burakitpachai(タイ)組ですが、5番手に来たのは一風変わった黄色のマシン。Pointer Team の #130 Raz Yehoshua Heymann/Hillel Segal 組が飛び込んで来ました。この極悪路がマシンに合っているのでしょうか? 彼らはイスラエルから参加しています。
続く #110 Suwat Limjirapinya(タイ)/Prakob Chaothale(タイ)組と #115 Ditsapong Maneein(タイ)/Athikij Srimongkhol(タイ)組。2台の Isuzu Suphan Explorer Liqui Moly Rally Team のうしろ、8位のポジションに日本のプライベートチームがはいって来ました。Würth TRD Hilux MSB Tras 135の #135 新田正直/里中謙太 組です。
このマシンは昨年に引き続き、環境に配慮した天然繊維コンポジットのボディパーツを用いられれ、持続可能な材料のテストが行われています。マシンの基本は「TRDハイラックスMSB」と呼ばれる「購入可能」なTRD公式カスタマイズドカーであり、その実はTRDが競技用に開発したパーツでライトなチューニングが施された競技仕様車です。これに、オプションで大会期間中のサービスも購入したことで夜間の整備もTRDから受けられるようになり、プライベートチームながら、ドライバーやナビゲーターの負担を大きく減らすことに成功しました。競技スピード域の速い上位陣が何台も崩れていく中、総合成績でも10位という十二分な成績で淡々と走り続けており、ドライバーの技量もさることながら、プライベートチームのあり方として、今、静かに注目を集めています。
SS1〜4までの総合成績では昨日に引き続き、TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA #105 の 青木拓磨(日本)/Ittipon Simaraks(タイ)Songwut Danphiphattrankoon(タイ)組がトップ、そしてチームメイトの #121 Tubagus Moerinsyahdi(インドネシア)/Jatuporn Burakitpachai(タイ)組が2位となりました。
ここに2連覇を目論む #101 Team MITSUBISHI RALLIART の Chayapon Yotha(タイ)/Peerapong Sombutwong(タイ)組がトップから約15分差の3位で食らい付き、残り2日間での逆転を狙います。
4位と5位には Isuzu Suphan Explorer Liqui Moly Rally Team の #115 Ditsapong Maneein(タイ)/Athikij Srimongkhol(タイ)組と #110 Suwat Limjirapinya(タイ)/Prakob Chaothale(タイ)組が迫り、続く6位にはなんと!イスラエルの #130 Pointer Team の Raz Yehoshua Heymann/Hillel Segal 組 が静かに迫ってきています。
トップの青木拓磨選手は「今日はマシンを労りながらペースを抑え、自分が心地いいスピード域で走りました。ここでマシンを壊しても仕方ないですからね」と淡々とした表情でコメント。
青木選手のフォーチュナーは、エンジンのCPUチューンによって、昨年のマシンから目に見えて優れた加速性能を手に入れており、ストップ&ゴーの多いコースレイアウトの中で、1年前とは明らかに違う挙動を見せています。この動力性能の余裕が、ドライビングにも好影響を与えており「力まぬ攻めの走り」に繋がっている模様です。
この落ち着いた走りを、いったい誰が覆すことができるのでしょう? 答えは神のみぞ知るところです。
なお、この日はホテルに戻ってマシンを整備している時間帯に稲光が走り、雷鳴が轟き、大粒の雨が降り続けました。この次のSS5も、どろどろのヌタヌタになることは間違いありません。果たしてどんなドラマが生まれるのか、明日のレポートに乞うご期待です!
薄闇の中、朝5時頃には宿泊ホテルの前は多くの黒い人影、直線的な車両のヘッドライト、ガラガラと何かを引きずる音などたいへん賑やか。そう、大会4日目は午前中にすべてのアジアンラリー参加者(競技者、サービス、サポーター、メディア、運営関係者など)が、短時間で一気に陸路でタイからラオスへ国境を超えるという、ヒリヒリとした緊張感が伴う一大イベントとなっている。
先陣を切って5時30分にMOTOクラスとメディアがホテルを出発し、各々ボーダーへ向かう。LEG4で設定されたSS4は国境を越えてすぐ、3kmほど先の生活道路がスタート地点となっている。
ラオスに入ったら右側通行に変わるので、自分でハンドルを握る人にとってはアタマの切り替えに気を遣うところ。対面するバイクなど、咄嗟の瞬間にかわしたつもりが正面衝突なんてよくある話。こんなとき、タイ人が運転するメディアカーに乗る身としては非常に心強い。彼らは陸路でボーダーをクロスすることに慣れているし、その国で生活する人のことも理解している。
なんやかんやありつつも、タイとは異なるラオスの大地でライダーたちは全員スタートを切った。まず目の前に広がる景色が違う。遠くにテーブルトップのような山々が見える。道はアップダウンが豊かで、凸凹と穴、深い轍……つまり平面ではなく立体的な路面がタイヤのお相手となっている。
そして地質もまただいぶ違っていて、土埃として舞う乾いた赤土は細かく、そして「硬い」。それを知るライダーはフロントフォークのインナーチューブにフォークスキン(インナーチューブを保護するネオプレーン素材などを使ったカバー)を装着しているが、知りつつもうっかり忘れて、あるいは知らずに走ってきたライダーの中には、フォークオイルが漏れて滴っているバイクも見られた。
期待(?)していた雨は路面を湿らせる程度で、事前にルート調査していた時期に比べるとすっかりカラカラに乾いている。タイに引き続き、ライダーたちは自ずとハイペースな展開となった。
ここで恐ろしいのが、無数のギャップや轍、そして「穴」だ。舗装されていないラフな生活道路は、タイと違って凹凸や轍の深さ、言うなれば「標高」がまるで違う。常に車体が下から突き上げられ、弾かれながら走り続けることになる。フォークオイルが滴り落ちてくるのも道理というもの。
そしてフロントタイヤが半分まですっぽりはまってしまうくらいの大きく深い穴が無秩序に口を開けてる。特徴的なのはその断面形状で、例えるならタイでは洗面器だとするとラオスでは「桶」のようなもの。油断していると穴の向こう側のエッジにガツンと突き当たる。これがバイクの足を前から止め、ハイペースで走っていると普通に前転してしまう。
まさしくそのような状況に陥ってしまったライダーもあり、前転後、バイクを立て直してはがれたサイドカバーを押し込み、またがって走り出してからしばらくの記憶が飛んでしまったとか。バイクを起こした向きに走り出すと、正面から見慣れたライダーとばったり出会ったことで、自分が逆走していたことに気付いて我に返ったという。
競技車両の中で注目度ナンバーワンとも言えるサイドカーは、SS4スタート15km地点でマディにはまり、スタックから抜け出すのに炎天下で体力を激しく消耗したことから、その先の細い交差点でエスケープした。4輪が出走したルート上に留まることは大変危険だからだ(SSのスタート順はMOTO、サイドカー、そしてAUTO)。
ちなみに、参戦車両の中で唯一となるこのサイドカーは、ロシアからカザフスタンに製造拠点を移した「URAL(ウラル)」によるもの。そして車両は「GEAR UP」をベースに船側をサイドカークロス“風”に仕様変更した「URAL CROSS」というモデル。欧州ではこの仕様で販売されている国があるらしい。パドックに置くだけで、国籍問わずいろいろな人が思わず足を止めて見入っている光景は、なんだか微笑ましい気がする。
ラオス初日は予想していたよりも「水っぽい」感じが無いように感じたが、場所によっては道幅いっぱいにフロントタイヤが沈むくらいの水たまりが続く場所もあったとか。
残す2日はラオスでのステージ。このまま「乾いたまま」終わるのか、それとも波乱の幕開けとなるのか。夕日を眺めると、黒い雲が立ち上っている……。