今日は後半戦最大のハイライトです。SSの距離はラオス ステージ最長。コースの前半は “超”ハイスピードながら、後半では “2輪や小さい車では流されかねない” ほど危険な河渡りと “涙が出るほど” 厳しいマッドエリアが待ち受けています。「これぞラオス」というスペシャルステージが用意されていたのです。
ところが、前日のチェックによって後半134.29km地点の河渡りが、降雨による増水によって「全ての競技者にとって危険すぎる」水位まで上昇していることが判明。残念ながらSS後半をキャンセルせざるを得ない状況になりました。これによりSS5は167.82kmから120.76kmまで短縮されました。
とはいえ、ルートは決して易しかったわけではありません。河渡りはスタート後すぐ、120mのポイントにも用意されていました。ここは距離的にアプローチしやすかったこともあり、近隣の村人やラリーの関係者が大勢押し寄せ、鈴なりになって見守る一大観戦エリアとなりました。
ここは、二輪車であれば木製の細い橋をバランスを取りながら渡ることができましたが、四輪は深い川の中を進まねばなりません。中には川の中を進むライダーもいましたが、マフラーまで隠れるような深い川底の凹凸に足を取られ、エアクリーナーから吸った水でエンジンがストップして立ち往生してしまいました。このバイクは結局、観戦者の協力によって川から引き上げられましたが、セルを回してもエンジンをかけることができず、シリンダーの中に入った水を取り出す作業が必要でした。再スタートを切った時は、拍手が沸き起こっています。
一番興味深かったのは #66 Rising Sun Racing with JRSA の 渡辺正人(日本)/大関政広(日本)組のサイドカーです。構造上、河渡りを選ばざるを得ないマシンでしたが、川底の泥で進めなくなるも、車体は倒れることなく安定しており、搭乗者2名はすぐに降りてエンジンストールを防止、アクセルを開け、後ろの2輪でトラクションをかけながら車体を人力で押すことで無事脱出させていました。ほとんどの地形では2輪のバイクのほうが速いのですが、車体の安定性や2輪で得られるトラクションの強さ、プラス1名の搭乗者のマンパワーといった要素が、このような悪路での走破性をより確実なものにしています。
四輪は、ドライバーによって走らせ方に違いがありました。勢いよく飛び込んだマシンは水圧によって序盤で大きく推力を失い、場合によってはフロントバンパーなどの樹脂パーツを損傷させ、中盤以降は失った勢いを取り戻すためにエンジンを全開にし、タイやを空転させ、路面を荒らしながら脱出していく傾向にありました。
これに対し、序盤はややゆっくりと、渡河の中盤から終盤にかけ、ゆっくり加速していくような走り方をするマシンは水しぶきも少なく、タイヤの空転もなく、スムーズに駆け抜けていました。水と戦うのではなく、水を切り裂き、押し分けながら走るスタイルのほうが、より優れたトラクションを得られていたようです。
中でもイスラエルから参加した #130 Pointer Team の Raz Yehoshua(イスラエル)/HeymannHillel Segal(イスラエル)組の黄色いマシンの走り方は、とてもスムーズで美しいものでした。
彼らは2005年に結成されたプライベートチームで、車両は三菱パジェロの駆動系を用いたオール・チューブラーフレームの自作マシン。ファラオラリーやダカールラリー、シルクウェイラリーなど、これまでにおよそ40近いクロスカントリーラリーに参戦し続けてきたといいます。今回始めてアジアのジャングルのラリーに参戦し「始めは色々と戸惑った」とのことですが、18位から12位、そして6位と日を追うごとに総合順位を上げながらゴールして来ました。2人しかいないのにマシンの整備も早く、他のチームが夜を徹して作業をするような日でも、どこよりも早く整備を終え、ホテルの部屋にもどってしまっています。
その理由を尋ねると「僕らは予め6日分の整備をして来ているからね」というシンプルな答えが返ってきます。でも「大切なのはマシンを労りながら、壊さないように走ること。それに、2人しかいないから、毎日部品を組みバラしすることなんてできないんだ。だから、壊れたところだけ交換する、というポリシーにしているよ」と明かしてくれました。
そして最後にこう付け加えてくれました「クロスカントリーラリーは何よりもゴールすることが大事。壊さなければ、結果はちゃんとついて来るからね。いままでも、そしてこれからも僕らはドライバーとナビゲーター(車両製作者)、そして相棒のマシンの3人だけで戦っていくんだ。ラリーは楽しいよ! ぜひ応援しててね!」
ここ最近、ワークスチーム同士の戦いが大きくクローズアップされるアジアクロスカントリーラリーですが、その歴史を10年15年も遡ると、このような小規模なプライベートチームが数多く参加していました。ランドクルーザーのような丈夫なマシンを使ってサバイバルな競技を毎日生き延び、ゴールまで辿り着くことを第一の目標として、極悪路は互いに協力し合いながら、それ以外の場所では自分のマシンを壊さぬようペースを守りながら、互いに切磋琢磨しながら毎日のゴールを称え合っていたのです。
クロスカントリーラリーにはこのようなプライベーター達の戦いもあります。Pointer Team のおふたりはとても気さくな方なので、ぜひ皆さん、この機会に友達になってみてください。
この日、二輪のトップタイムを叩き出したのは #15 Team OTOKONAKI の 砂川保史 選手(日本)です。ひとりだけ1時間20分の壁を破る素晴らしい走りでゴールに飛び込んで来ました。2位には #2 Team Cambodia の Koun Phandara 選手(カンボジア)が3分38秒差でゴール。3位には #1 Team Japan の 西村裕典 選手が続きました。
結果、総合では #17 JC DIRT SHOP Rally Team の Jakkrit Chawtale 選手(タイ)がトップ。Jakkrit 選手は前・中盤戦で十二分なアドバンテージを獲得できたからか、この日はトップより10分ほどペースを落とした走りで危なげなくゴール。最終日に万全の体制で臨みます。
総合2位は Team Japan の #1 西村裕典 選手(日本)。Jakkrit 選手との差は1時間以上あるものの、3位を走る Team Cambodia の #2 Koun Phandara 選手(Cambodia)との差も20分以上と、かなりのアドバンテージがあります。続く4位は Team Cambodia の #16 Chhour Chan Sovan 選手(カンボジア)で3位との差は14分、5位の Team OTOKONAKI 砂川保史 選手(日本)との差は46分とこちらもかなり間隔が開いており、総合6位の Team OTOKONAKI 松本典久 選手(日本)も含め、上位陣の順位は明日の最終日に大きなミスや故障がなければ、大きく動くことはないだろう、という状況です。
四輪はこの日、Team MITSUBISHI RALLIART の #106 の Rifat Helmy Sungkar(インドネシア)/Chupong Chaiwan(タイ)組が、昨日までの鬱憤を晴らすかのような快走を見せ、1時間5分という驚異的なタイムでゴールしました。Rifat 選手の新型トライトンは破損したリアのサイドパネルを取り除き、リア側フレームやスペアタイヤが丸見えの状態で出走しており、それがまた、鬼気迫る走りにマッチして、とても印象に残る走となりました。いつも明るい Rifat 選手の調子がいいと、MITSUBISHI RALLIART チーム全体に活気がみなぎるのを感じます。
2番手のタイムで飛び込んできたのは NEXZTER REST CLUB (NXRC) の #108 Theerapong Pimpawat(タイ)/Jumpol DOUNGTHIP(タイ)組のハイラックスレボ。SS4のトップタイムに続き、多くのライバルを置き去りにする速さで後半戦に執念の追い上げを見せています。
そして3番手のタイムを出したのは TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA の #105番、青木拓磨(日本)/Ittipon Simaraks(タイ)Songwut Danphiphattrankoon(タイ)組のトヨタ フォーチュナーでした。
青木拓磨選手はこの日もマシンを壊さないことを優先したステディな走りながらトップ3に収まる好タイムを叩き出し、充分な存在感を放っていましたが、実はチーム全員が真っ青になる事態が発生していました。SS5のゴール後、帰りのRSで左後輪から異常な振動が発生。チェックした結果ハブボルトが1本しか残っていない状態に陥っていたのです。この事態にナビゲーターの Ittipon 選手と 第二のコドライバーとして同乗している Songwut 選手が応急修理を実施。なんとか走れるようにしてゴールのホテルへ向かいましたが、無事到着した時、時計の針は「あと2分遅れればタイムペナルティー加算」というギリギリの状況を示していました。ここでペナルティーが加算されていたら、総合順位も大きく変わっていたのです。
続く4位にもチームメイトの #121 Tubagus Moerinsyahdi(インドネシア)/Jatuporn Burakitpachai(タイ)組が続いています。
5位は TOYOTA GAZOO RACING THAILAND の #102 Jaras Jaengkamolkulchai(タイ)/Sinopong Trairat(タイ)組。昨年2位の意地を賭け、ひとつでも順位を上げるべく、激走を続けています。そして6位には 昨年優勝した Team MITSUBISHI RALLIART の #101 Chayapon Yotha(タイ)/Peerapong Sombutwong(タイ)組が、やはり最後の一瞬まで望みを賭けた戦いを続けています。
総合トップは昨日と変わらず、TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA #105 の 青木拓磨(日本)/Ittipon Simaraks(タイ)Songwut Danphiphattrankoon(タイ)組。これにチームメイトの #121 Tubagus Moerinsyahdi(インドネシア)/Jatuporn Burakitpachai(タイ)組がワン・ツー体制で続いています。
この2台に食らいついているのが昨年のチャンピオン #101 Team MITSUBISHI RALLIART の Chayapon Yotha(タイ)/Peerapong Sombutwong(タイ)組です。トップの青木選手との差は約17分となっています。
そして驚くべきことに、このトヨタ VS 三菱、そしてイスズ勢が繰り広げるワークス&セミワークス勢の戦いに割って入ってきたのが #130 Pointer Team の Raz Yehoshua Heymann(イスラエル)/Hillel Segal(イスラエル)組の黄色いマシン。3位の Chayapon 選手との差は1時間近くありますが、明日の最終SSの結果次第では総合3位以内の順位を獲得する可能性も充分に秘めています。
なおディナーの席上で、大会を協賛しているPROPAKよりSS5上位のタイムを叩き出した二輪と四輪の選手に対し表彰があり、賞金が手渡されました。
さあ、泣いても笑っても競技はあと1日。SSもあとひとつを残すのみです。最後の競技区間は51.96kmと短めですが、悪魔の棲むラオスのスペシャル ステージに「絶対」はあり得ません。ただ、私達はここまで総力を傾けて戦ってきた全ての選手たちが、笑顔でゴールして来ることを心から願うだけです。
バイクのテスト中の事故で下半身が付随になり、全ての競技から遠ざかっていた青木拓磨選手が2007年に四輪への転向とアジアクロスカントリーラリーへの参戦を発表し、ラリーアートの名の元に 三菱トライトンを駆って参戦し始めて以来17年。14回目の参戦にして悲願の初優勝を果たすことができるのか? あるいは同僚の Tubagus/Jatuporn組が最初に飛び込んで来るのか? それとも三菱のトライトンが2連覇を飾るのか? 結果は、神のみが知っています。
いよいよメコンの空にラリー最終日の太陽が昇って来ました。
選手もチームの関係者も、誰もがゴールの世界遺産「ワット・プー」を紅く染める夕陽を笑顔で眺めたい! と願っていることでしょう。
それではみなさん、今度は、速報記事でお会いしましょう!
前日夜のブリーフィングで発表された通り、ラオスの道は多くの水分を含み走破困難、オーガナイザーはSS後半に予定されていたリバークロスも危険と判断し、SS5後半を丸っとキャンセルしたため、中間地点のPCストップで大会5日目(LEG5)の競技は終了となる。
走る距離が半減され、大会のメインディッシュとなる川渡りが無くなり、バイクもクルマも競技者は消化不良化かと思いきや、終わってみるとAUTOクラスの人からは「もうおなか一杯です……」との声がチラホラ。
この日の朝、余裕をもってSS5のスタート地点へ向かったMOTO撮影班は、徒歩でSSルートに入り、撮影ポイントを探す。湿った赤い土の上をヒタヒタと歩いていると、トレッキングブーツのソールには重たい赤土がまとわりついて足が重い。これは油断していると足元をすくわれるパターンだ。
そう言えば昨晩はまとまった雨が降った。日本人選手のパドックにはテントが4張(約3×3m)立てられたが、うちひとつが水の重みでフレームがぐにゃりと曲がって使い物にならなくなってしまった。
SSの路面は昨日までのガツガツ(乾いた固い赤土)、ジャリジャリ(砂利)、シャクリシャクリ(グラス)、モスリモスリ(サンド)……といった靴底の感触とは明らかに違い、にちりにちり、ぬちゃりぬちゃり、ちゅるり……と、「水っぽさ」を感じる。しかし事前調査で報告された極悪な泥濘ロードなんてことはなく、見た目は湿った赤土、所々に大きな水たまりがある程度。
カメラバッグを背負い、カメラを首に下げて歩いている横で地元の人間はスクーターやビジネスバイクでトトトトト……と、湿った赤土の道を走って行く。そんなバイク(タイヤ)で滑らないわけもなく、しかし転ぶ様子もなくゆっくりと確実に進んでいく。しかもだいたい2人乗りかそれ以上で、たとえば後ろの奥さんはリアキャリアやシートに横座り、2人とも足元はサンダル、旦那は片手に農機具などを持ち、奥さんが後ろで跨がって座っている場合は2人の間に小さな子供をサンドイッチして自分の畑へと向かう……。これぞまさしく、アジアンラリーでよく見る光景。
そんなことを考えながら歩いていると、遠く先まで見通せる延々と続く一本道を黙々と歩いている後ろ姿を見て不憫に思ったのか、スクーターに乗った軍服姿の男性に声を掛けられ、後部シートに乗せてもらった。案の定、バイクのタイヤは前も後ろも滑っている。転ぶ気配はないが、カメラ片手にタンデムステップで踏ん張る方は気が気ではない。しかもソールは赤土のせいでステップから滑り、何度も外れる。
地元民の優しさに助けられつつ、変わり映えしない蛇行する一本道で撮影スポットを決め、またいつものようにライダーがやってくるのを待つ。そんな1日の始まりだった。
ライダーにとって最初の難関は、スタートからほんの120メートル地点にあった。深く窪んだ幅の狭い川(クルマ2台分くらい)を横切るというもので、川面の流れは遅く、水面より数メートル高い位置の岸には丸太を3本渡し、その上に幅60cm程度の羽目板を打ち付けた手作りの橋が架かっている。
バイクは橋を、クルマは川を渡るというシーンだ。ふと思ったのは、タイヤが3本のサイドカーはどうするの? ということ。橋は幅が狭くて通れない。仮に片輪走行で船を浮かせれば渡れなくもないとは思うが、リスキーな選択だろう。川の方は、深さと川底の状況次第。
この日のルートを完走したサイドカーの2人組に聞くと、パッセンジャーが川に入って深さと底の様子を確認し、行けると判断して川に進入したらしい。そんなことがその先も何回か続いたと言う。
上位で完走したライダーによると、距離は短いものの、おおよそ4分の1はスリッパリーな路面だったらしく、その見極めができずに早いペースで滑りやすい路面に乗ると、簡単に道の外へ飛んで行ってしまうのだとか。
また、トップを走るタイやカンボジアの選手の後姿を追っていると、彼らは昨日までとはうってかわってペースが控えめ、しかしスピードを出せるところでは出していた、とのこと。スリップと穴やギャップに警戒しながら走ることに慣れている彼らには、やはり大きなアドバンテージがあったようだ。
途中、雨にも降られるような「水っぽさ」を感じさせるラオス2日目では、ヤマハ「テネレ700」に乗る台湾のライダーがSS上で転倒し、しばらく動けなかったらしい。また、SSフィニッシュを過ぎたアスファルト路面で激しく転倒、骨折を伴うダメージを負ったライダーも現れた。
全体で見れば6日間のアジアンラリーは後半戦真っただ中にあり、精神的にも肉体的にも疲れはとっくにピークを過ぎているところ。そうして明日、最終日(LEG6)を迎える。